目次
研究論文の書き方を、研究の仕方から解説するシリーズ第9弾!
「研究論文って、どうやって書いたら良いかわからない…」
そんなお悩みに対し、研究の仕方から解説する“研究論文の書き方”シリーズ、今回もお届けします!
前回の記事では、量的調査・質的調査において研究結果を分析する方法について解説いたしました。
基本的には調査技法ごとに「誰がやっても同じ結果が出る」ような客観性ある分析を目指す必要があることを見てきました。
単にアンケートをまとめる・インタビューをまとめるだけでなく客観的な分析をすることで学問をより深めていくことができます。
今回はその次のステップとして、調査結果をもとにどう考察していくかを解説していきます。
調査をしただけで満足していませんか?
よくやりがちなのがデータを「集めること」だけで満足してしまうパターンです。
たとえばアンケートを100件集めた、インタビューを10人に実施したということに達成感を覚えるものの、そこで満足して力尽きてしまう。
こういうことって時折あります。
ですが、真の研究はここから、です。
データを集めてきた後、それらを学問的に分析し、「考察」するのが大事なのです。

すでに分析の方法は前回も見てきました。
大事なのは分析をした「次」の段階である「考察」を深めていくこと。
これこそが研究の醍醐味でもあるのです。
調査を通して得られたデータは、単なる“素材”にすぎません。
その素材からどんな意味を導き出すのか。
そして、その意味をどのような根拠と理論で説明できるのか。
そこに研究としての価値が生まれます。
結果を「解釈」する力が研究者の差になる
たとえば、ある調査で「仕事の満足度は男性より女性の方が高い」という結果が得られたとします。
(前回、クロス集計という分析手法をお伝えしていますが、仕事に満足している人の割合と回答者の性別をクロスすると「男性・女性どちらのほうが仕事に満足しているか」を読み取ることが出来ます)
このとき、分析した結果をそのまま記述するだけでは“報告”にすぎません。
重要なのは、「なぜそのような結果が出たのか」を考えることです。
では、なぜこういった傾向の違いが生まれたのでしょうか?
たとえば次のような解釈が考えられます。
- 調査地域では女性の就業率が高く、職場の支援制度も整っているのではないか
- 子育て支援策や柔軟な働き方の導入が女性の満足度を高めているのではないか
- 一方で、調査した地域では男性の長時間労働文化が依然として根強いのではないか
このように、分析した結果の背景にある要因を推論することが考察の第一歩です。
単なるデータではなく、「この結果が何を意味しているのか」を語ることが、学術研究としての深みにつながります。

「仮説」は常に考え続ける!特に考察の際は必須!
ここでやっている作業、「なんだか仮説を立てるのに近いな」と思われた方もいらっしゃるかも知れません。
この「研究論文の書き方シリーズ」の第1回で「仮説を立てること」の大事さをお伝えしました。
研究を始める段階から「〇〇ならば△△になるのではないか」と「因果関係」に基づく仮説を考えることが大事だとお伝えしてきたわけです。
仮説を考える姿勢は研究の最初だけでなく、研究を進めている際は常に考え続ける必要があります。
なかでも結果の分析を元に「考察」をする際 仮説を考える姿勢は極めて重要なのです。
調査分析をしたたあと「自分の仮説は当たっていたのか」「別の要因が作用していないか」
を再検討することで研究の精度が格段に上がるのです。
フジモトの修士論文の場合
たとえば私は1回目の修士論文では
「通信制大学において学生会組織がある方が学習意欲を高め、卒業率が上がるのではないか」
という仮説を立てました。
実際にインタビューを重ねると、確かに学生会の活動が学習継続に好影響を与えている様子がわかってきました。
ですが同時に、通信制大学において学生会活動の担い手が特定の少数者に偏っており、場合によっては本来大学側がやるべき業務についてもボランティアとして強いられている実態もあるように見えてきたのです。
つまり、
「学生会がある=良いこと」という単純な仮説が
「学生会があるがゆえに一部の学生の負担が増しているのではないか」
という新たな仮説の再構築へと進んだわけです。
なお、この事がわかってきたからと言って「通信制大学の学生会組織には問題がある」ということを言いたいわけではありませんので念のため。
考察には「理論」を活用しよう!
分析内容を研究について考察する際に欠かせないのが理論(theory)と呼ばれるものです。
理論とは、既に多くの研究者が積み重ねてきた「現象を説明するための枠組み」や「概念モデル」のこと。
よく「〇〇理論」「〇〇の法則」などという表現方法で説明されている概念がこの理論に当たります。

社会学ですと「紐帯(ちゅうたい)理論」や「シグナリング理論」、経営学ですと「レッド・クイーン理論」など様々な理論があります。
研究結果を考察する際、自分独自の説明をイチから行っていくとめちゃくちゃ大変です。
ですが、先人たちが作ってきた「理論」に当てはめて説明すると非常にわかりやすく考察をまとめることができるのです。
これらの理論を使うことで、個別の調査結果を社会的文脈の中で説明することが可能になります。
理論を使うことで研究に「深み」と「説得力」が出る!
では再び私の修士論文の例に戻ってみましょう。
通信制大学の学生会活動に関する私の研究では、最終的にイバン・イリイチが提唱した「シャドウ・ワーク理論」を活用しました。
シャドウ・ワーク理論はもともと社会が成り立つために存在する“無償労働”の構造を明らかにするものです。
例えば家事労働というものは社会を成り立たせているにも関わらず賃金が発生していません。
そのせいでかつては「主婦業」は「やって当たり前」の存在であり、「価値がない」労働であると考えられてきました。
この考え方にNoを突きつけた研究の1つがイバン・イリイチのシャドウ・ワーク理論なのです。
つまり、シャドウ(影)に隠れて見えなくなっており、「価値がない」と捉えられてきた労働こそが社会を成り立たせていることをこの理論が解き明かしたのです。
学問の流れではこのシャドウ・ワーク理論はフェミニズム運動を支える理論の1つにもなりました。
現在、主婦業や家事労働というものはケアを担う点で非常に「価値がある」存在だと認識されるようになってきていますが、こういう認識を提供するうえでシャドウ・ワーク理論は大いに役立ってきているのです。
私は修士論文においてこのシャドウ・ワーク理論を通信制大学に「援用」することで分析結果を説明していきました。
具体的に言いいますと、通信制大学の学生会組織を大学側から見れば「無償で運営を支えてくれる都合の良い仕組み」として機能している側面があることを「考察」していったのです。
つまり、学生会の存在が大学の低コスト運営を支え、その結果として一部の学生に過度な負担を強いている可能性があるーー。
そうした構造的問題を可視化するうえでシャドウ・ワーク理論を活用していったのです。
理論を用いることで、単なる解釈を学問的に意味のある説明に昇華させていくことが可能となるのです。

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理論は研究を見るための“レンズ”である
ここで注意しておきたいのは、理論を“そのまま当てはめる”のではなく、理論を「レンズ」として使うという姿勢です。
理論とは、研究対象を観察するための“レンズ”のようなもの。
どの理論を使うかによって、見える景色が変わります。
たとえば同じ現象でも、経済学の視点で見れば「インセンティブの問題」となり、心理学の視点で見れば「動機づけの問題」となります。
また社会学で見れば「構造的格差の再生産」として説明することもできます。
このように、理論の選択が分析の方向性を決定づけるのです。
先行研究を読み直して「理論の蓄積」を確認する
理論を使うためには、まず先行研究を読む力が必要です。
なぜなら、理論の多くは既存研究の中で応用・検討されてきたからです。
文献を読みながら、次のポイントを意識するとよいでしょう。
- どの理論を引用しているか
- その理論で何を説明しているか
- どのような限界や批判があるか
これらを整理していくことで、自分の研究が「どの理論的流れ」に位置しているかが明確になります。
そして、先行研究で扱われていない新しい視点を提示できれば、それ自体が研究の独自性となります。
おすすめなのは私が「シャドウ・ワーク理論」を扱ったように、別の研究で使われている理論を別の分野でも使ってみることです。
シャドウ・ワーク理論はフェミニズムをはじめとする女性学の分野でよく使われている理論でしたが、それを通信制大学学生会の研究で使ってみることで一定のオリジナリティが生まれたのではないかと自分では思っています。
理論の「限界」を指摘することも立派な研究
理論を使う際にもう一つ重要なのが、「理論で説明できる範囲はどこまでか」を検討することです。
理論と言っても万能ではありません。
「ここまでは〇〇理論で説明できるが、ここから先は〇〇理論では説明できない」ということも実際に存在します。
その場合は理論を使って研究できる範囲がどこまでかを提示することが必要です。
例えば私の研究では通信制大学の学生会組織の活動すべてが「シャドウ・ワーク」であるというわけではありません。
また、学生会組織にやりがいをもって取り組んでいる方も多いですし、学生会組織の運営から多くの学びがあることも事実です。
なので私の研究においても「シャドウ・ワーク理論で説明できる点」と「そうではない点」を立て分けるように(自分なりには)注意をしていきました。
理論は万能ではありません。
どこまでが適用可能かを冷静に判断することが重要なのですね。

理論を使うと研究がわかりやすくなる!
理論を用いて考察を行うことで、研究は理解しやすくなります。
理論を使うことは「自分の研究が学問の系譜の中に位置している」というサインにもなります。
だからこそ、調査分析を考察する際には「どういう理論に当てはめて説明できるか」を考えてみるのをおすすめします!
まとめ!分析結果の考察には理論を活かそう!
ここまでの内容をまとめると、次のようになります。
- 分析結果を「まとめるだけ」でなく、「なぜそうなったのか」を考察することが重要
- 理論を通じて考察することで、研究に深みと説得力が生まれる
- 先行研究の理論を整理し、適切に援用するのだ大事
研究とは、単に事実を並べる作業ではなく、「事実の背後にある意味」を読み解く営みです。
理論はそのために役立つ道具(ツール)なのです。
道具だからこそ、1個だけよりはいくつも持っていたほうが汎用性が高まります。
研究を進めながらも専門書籍を読み込み、その分野の理論を頭に入れていく努力をしていきましょう!

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研究論文では調査結果や分析結果をまとめるだけでは不十分です。大切なのは「なぜそうなったのか」を理論を用いて考察すること。理論は研究対象を理解するための“レンズ”であり、分析結果に深みと説得力を与えます。先行研究を通じて理論を学び、適切に理論を活かす。そうすることで、自分の研究を学問の系譜の中に位置づけていきましょう!