目次
研究論文の書き方シリーズ第12弾!
「研究論文ってどうやって書いたら良いかわからない…」
そんな声にお答えすべく、「研究論文の書き方」シリーズでは研究の進め方をイチから解説してきました。
これまでの記事では、仮説の立て方、先行研究の検討、研究方法、結果の分析、考察といった論文執筆の一連の流れを見てきました。
そして前回の記事では「はじめに(序論)」は最後に書くという論文執筆の鉄則についてお伝えしました。
今回は、その「はじめに」と並んで非常に重要でありながら意外と多くの人が軽視してしまう「アブストラクト(抄録・要約)」の作り方について見ていきます。
アブストラクト(抄録)とは何か?
論文の「アブストラクト(Abstract)」とは、研究論文の要約部分のことです。
大体の場合は論文の冒頭に掲載され、読者がその研究の概要を短時間で理解できるようにするためのものです。
このアブストラクト、単なる「まとめ」ではありません。
研究の全体像を、限られた文字数の中で正確かつ簡潔に表現するという極めて高度な文章力が求められているのです。

現代は情報がありふれています。
毎日新刊書籍は約200冊出版されていますし、SNS・Web上にも大量に情報が溢れています。
こと研究分野をみても日本語の文献だけでも数え切れないほどあります。
さらに海外文献まで含めれば膨大な量になります。
そのため、研究者であってもすべての論文を最初から最後まで読むことはほとんどありません。
「この論文を読むかどうか」を決める最初の判断材料となるのがアブストラクト(抄録)です。

特に論文の中には「課金」をしなければ読めない有料論文も多くあります(これ、かなり多いので研究をやり始めた時つまづきやすいです)。
そんなときでもアブストラクトの部分はタダで読めることが多くあります。
簡単に言えば「この論文に課金をするかどうか」を判断するのにもアブストラクトは活用されます。
されにはアブストラクトの部分だけは「英語」で書くことが求められるケースも有り、海外の研究者が自分の論文を読むかどうか判断するためのツールにもなっています。
たまに理系の研究者から文系研究者がバカにされるのがこの点です。
「え、論文を日本語でしか書いてないんですか!」という形で驚かれるケースがあります。
そういう場合、「アブストラクトは英語で書いてますよ!」と私は言い返すようにしています(弱い反論ですが)。
このように、アブストラクトは日本中・世界中の研究者にとって「この論文を読むかどうか」を判断するためのツールであり、論文の「入口」になっているわけです。
決して「論文の単なるまとめ」ではないのです。
アブストラクトはいつ書くか?
前回の記事では研究論文の「はじめに」は「最後」に書く、とお伝えしました。
ではアブストラクトはいつ書くべきでしょうか?
それは「はじめに」を書き終え、論文の全体的な体裁を整えた後となります。
「はじめに」を含め論文全体を形作った後に一気に書くのがおすすめなのです。
それはアブストラクトには「はじめに(序論)」と「終わりに(結論)」の両方の要素を含む必要があるから、です。
まずは論文全体の作成に全力を注いだ後、一通り完成した後にアブストラクトを書くと無駄なく作業が出来ます!

アブストラクトに書くべき内容
アブストラクトって、けっこう短いです。
修士論文レベルではA4サイズ1〜2枚程度、投稿論文ですと400~800文字ということもあります。
(英語だと150〜250wordsということが多いです)
これだけ短い文章の中に、研究の本質を凝縮する必要があります。
だからけっこう「大変」なのですね〜。
アブストラクトにはつぎの4つの要素を簡潔に盛り込むのが基本です。
- 研究の目的・背景(初めにの要約)
なぜこの研究を行うのか、どのような課題意識があるのか
どういう参考文献があるか(個別の論文タイトルまでは言及しなくても大丈夫です) - 研究方法(Method)
どのようなデータ・手法を用いたのか - 研究結果(Results)
どのような結果が得られたのか - 結論・意義(Discussion/Conclusion)
この研究の成果や社会的・学術的な意義は何か
研究の限界は何か
これらの要素、言ってしまえば「はじめに(序論)」と「終わりに(結論)」に書いた内容をメインに使いつつ、実際に行った調査手法とその結果と分析・考察を手短にまとめることが求められています。
生成AIを活用したアブストラクト作成のすすめ
昔はアブストラクトを書くのに多大な時間がかかりました。
特に、ふだん日本語でしか論文を書いていない研究者にとって、アブストラクトを日本語で書くだけでも大変なのに「英語」で書くことが求められることもあるからです。
…実際、私も1回目の修士課程生の時、英語のアブストラクトが必要になり慌てた記憶があります。
ただ、これも過去の話。
今は、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場によってその負担を大幅に軽減することが可能になっています!
たとえば、自分で執筆した論文本文をAIに読み込ませて「この論文のアブストラクト(要約)を800字で作成してください」と指示すれば、非常に的確な要約が出力されます。
しかも、下手に自力でアブストラクトを作らなくても本質を突いた要約を数秒で作ってくれるのです。
生成AIを悪く言う人もいますが、私は論文のアブストラクト作成においては生成AIを大いに活用スべきであると思っています。
もちろん、論文本文を生成AIで作ってしまうのは論文投稿規定に引っかかってしまうこともありますが、アブストラクトくらいなら良いんじゃないかと思っています。
なぜなら、論文自体がまとまっていないと生成AIにアブストラクトを作らせても「的外れ」なものになってしまうからです。
まずは自分自身が全力で論文を執筆し、最後に生成AIにアブストラクトだけ作ってもらう。
その内容をそのまま使うのではなく、「表現が正確か」「意図とズレがないか」を必ず自分の目で確認・修正したうえで提出するのであれば問題ないのではないか。
私はそう考えています。
というのも、人間がまとめたアブストラクトって「アブストラクトの内容とズレている」と思われる論文も散見されるからです。
ズレたことを人間がまとめてしまうくらいなら、生成AIに正確にまとめてもらったほうが良いのではないかと私は思います。

英語アブストラクトの書き方と注意点
近年では日本の学会や修士論文でもアブストラクトを英語で提出するケースが増えています。
(私も毎回困っています…)
英語が苦手な方にとってはハードルが高い部分ですが、ここでもAIツールを活用できます。
たとえば、日本語で書いたアブストラクトをDeepLやGoogle翻訳などのサイト・アプリにかけることで自然な英語に変換できます。
ここも批判はあるでしょうが、慣れない修士課程生が作ったグチャグチャな英語アブストラクトよりも翻訳サイトを活用したアブストラクトのほうが読みやすいし正確です。
別に論文や研究の本質に関わる部分ではないので翻訳サイトを活用しても問題ないのではないかと考えています。
ただ、翻訳ツールを使う際の注意点もあります。
2つに分けてみていきます。
(1)直訳表現になっていないか確認する
英語と日本語では、文の構造や意味のまとまりが異なります。
特に「〜に関する一考察」などの日本語論文特有の表現は英語では不自然になる場合があります。
実際、タイトルで「〜〜に関する一考察」という表現は日本語論文では時折見ますが、これを直訳した「A study on…」や「A consideration on…」などという表現は英語論文ではあまり見ることがありません。
むしろ「なんだか違和感がある」と思われてしまうこともあります。
…ただ、翻訳サイトだと平気でこういう風に訳されてしまうので「この訳し方で問題ないか」を確認するようにしましょう。
(2)専門用語の訳語を確認する
学術分野によっては特定の専門用語に定訳があります。
その上(困るのが)日本語で使っているカタカナ表現と英語の表現がズレているケースです。
例えば日本語でもソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という言い方を論文で書くことがありますが、日本語表現のソーシャル・キャピタルと英語表現のsocial capitalでは若干意味範囲が異なることがあります。
なので単純にソーシャル・キャピタルをsocial capitalと表現すると問題が生じるケースもあります。
こういった専門用語が正しく訳されているかも確認する必要があります。
以上2点を見てきました。
このあたりの部分は日常的に英語論文を目にすることでしかズレに気付けないケースがあります。
ぜひ自分の分野の英語論文を参考に表現のされ方を確認するようにしましょう!
まとめ!AIも活用していいアブストラクトを作成しよう!
生成AIツールが進化した今、かつては大変だったアブストラクト、なかでも英文アブストラクト作成をするのがだいぶ楽になりました。
(今回は生成AIを活用することありきでみてきましたが、もしアブストラクト作成なども生成AIの活用が完全に禁止されているならばその規則に従うようにしてください)
…実は私、英文アブストラクトについては「思い出」があります。
1回目の大学院生時代の私が企画・立案した最初のイベントが「英文アブストラクト講習」だったのです。
ときは2011年の冬。
自分のように修士論文を書いている仲間に向けて有料で勉強会を開催したわけです。

自分が困っていることを専門家を呼んで教えてもらう。
そういう形式で行った「英文アブストラクト講習」、参加者からも喜んでいただけたことを受け「自分でイベントを企画する楽しさ」を実感しました。
「自分で何かをやってみる」ことの楽しさに気づいたことがいまの起業にも繋がっているのです。
「英文アブストラクト講習」のときは人間が書くしかありませんでしたが、いまは生成AIや翻訳サイトなど強力が味方が揃っています。
ぜひ活用してあなたの論文を良いものにしてくださいね!
(ただし、あくまで生成AIや翻訳サイトは「ツール」ですので、作ったものを自分自身で確認・修正する習慣を忘れないでくださいね!)
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研究論文の「アブストラクト(抄録)」は単なるまとめではなく、研究の目的・方法・結果・意義を短く正確に伝える重要な入口です。書くタイミングは論文を一通り書き終えた後がベスト。英語での作成が求められる場合も多く、生成AIや翻訳ツールを上手に活用することで効率的に作成できます。ただし、必ず自分の目で内容を確認・修正することをお忘れなく!