
(インタビュー実施日:2025年5月3日@Zoom上)
前編はこちら。
目次
人文系の大学院を卒業してみての変化!
ーー:Aさんは2024年に早稲田大学大学院を修了なさったわけですが、大学院で学んだことはご自身にとって自信になりましたか? 何か変化はありましたか?
A:「何かを教えたい」「新しいことにチャレンジしたい」と思ったときに、以前よりいろんな視点で物事を見られるようになったと思います。
もちろん失敗するかもしれませんが、支えてくれる仲間がいるという安心感があります。
特に、自分はもともとの専門であるITスキルがありますから、それをスポーツ業界に活かせないかと考えるようになったのも一つの変化です。
昔だったら思いつかなかったようなことでも、今はいろんな方がアドバイスをくれる環境があって、それが自分にとっての“張り合い”になっている気がしますね。

――:素晴らしいですね。その“張り合い”が得られたというのは、すごく良いことだと思います。
A:大学院に行ってマイナスだったことはほとんどなかったです。
あえて言うなら、学費が高かったことくらいでしょうか。
やっぱり160万円は大きいですからね。
――:そうですよね。私の知り合いにも「学費がネックで…」という方は多いです。
A:でも、私にとってはこの金額、10年かけて回収してもいい投資だと思っています。
幸い、ゼミの先生も「いつ来てもいいよ」と言ってくださるような方で、ゼミに長く関わることもできますし。
ゼミの先生とは今でも繋がりがあります。
私が社会人野球をやっていたこともあって、野球関連の研究をしている先生とも関わる機会が多く、今後も趣味として続けながら、野球に関する研究や活動をしていけたらと思っています。
なので、学費160万円をかけた価値はあったと思います。結局それを活かすも殺すも自分次第ですから。

「卒業証書をもらってホッとしました」
――:その通りですね。では、その“価値”をどう活かすかが、今後の課題にもなってきますね。
卒業式で卒業証書をもらったとき、どんな気持ちでしたか?
A:ほっとした、というのが一番でしたね。
ある種の“達成感”があったというより、「やっと終わった」という感覚が強かった気がします。
在学期間中、全力で詰め込んでいたので「めちゃくちゃ大変だったなあ」と実感しました。
でも、「この年齢でも乗り越えられた」というのは自信にもなりました。
私はいま50代に差し掛かったのですが、「まだまだこういう挑戦ができるんだ」という気づきもありました。
ただ、体力的にも大変だったのでせめて40代前半のうちにやっていれば良かったいう思いは強いです。
ちなみにうちの大学院(早稲田大学大学院)には60代の方も多く在籍していて、50代後半の方も珍しくありません。
なので、年齢を理由に諦める必要はないですが、それでも40代前半くらいから始めるほうが良いんじゃないかなとは思います。

「工学と人文系の学問は大きく違いました」
――:なるほど、そうなのですね。
では、1回目に工学系の大学院を出たときと比べて、社会人になってから人文系の大学院に改めていかれたわけですが、大学院生活はけっこう違いましたか?
A:大きく違いましたね。
工学系では、やはり数値計算や定量的な研究が中心で、「0か1か」という明確な結果が出る世界でした。
一方、人文系では、インタビューや人の言葉が“データ”になる。
その感覚が最初は全く理解できませんでした。
「この人がこう言った」という発言が、そのまま論文の材料になることが最初違和感でしかなかったんです。
今までは数字しか見てこなかったので、「本当にそんなことで論文が書けるの?」という疑問を持っていました。
でも、最終的にはその感覚にも慣れて、「人の言葉がデータになる」という面白さも分かってきました。

「2度目の大学院生活で仕事の仕方が変わりました」
――:理系的な実験と人文系のインタビューとは違いが大きいですよね!
人文系の知識がお仕事で役立った場面などはありますか?
A:はい。たとえばプレゼン資料の作り方が変わりましたね。
以前は数字を並べた“ファクト重視”の資料が多かったんですが、今では「言葉」や「文脈」を意識するようになりました。
聞く人にとって意味のあるプレゼンを作ろうという意識が芽生えたのは、大学院で人文系の学びをしたからの成果だと思います。
――:素晴らしいですね。専門的な内容だけでなく、よりメタ的な視点を実践に活かされているのは、本当に価値ある学びだと思います。
A:ただ、卒業したとはいえ言葉というものには抽象的な部分も多くて、正直、怪しさを感じる場面もありますけど。
でも「言葉がデータになる」ということは分かってきましたし、使い方次第だと思いますね。
――:理系と文系、どちらの視点も知っているからこその気づきですよね。
A:はい、それを実感しました。「文理融合」というのが、まさに自分の中でのテーマになっていたと思います。
「今後の展望は?」
――:では、Aさんが今後の展望として考えていらっしゃることがあれば教えてください。
A:私はもともと社会人野球のチーム運営を長くやっているので、そこに関する研究を進めたいと思っています。
クラブチームというのはビジネスではないけれど、資金がなければ成り立たない世界です。
スポンサー探しからチーム運営まで、自分がやってきた経験をデータとしてまとめ、論文にして残したいと考えています。
最終的にはその論文を読んで、「よし自分も新しくクラブチームを立ち上げよう!」という人が出てきたら嬉しいですね。
なので自分の経験を、次の世代に繋げられるような研究ができればと思っています。
――:素晴らしい展望ですね。他に挑戦してみたいことはありますか?
A:大学院での研究をもとに今後はスポーツビジネスにも、もう少し本格的に関わっていきたいと思っています。
自身の本業であるIT分野でも今はアリーナ建設などが盛り上がっています。
なので、ITを活用しながら、アリーナ経営やスポーツイベントのマネジメントなどに携われればと。

「何のために行くのかを忘れずに」
――:わかりました。
それでは最後になりますが、今、大学院進学を考えている社会人の方々へ、メッセージをいただけますか?
A:大学院に進学するには、まず自分の立場や目的を明確にすることが大事です。
「何のために行くのか」と考えることが進学対策の7割くらいを占めるんじゃないでしょうか。
例えば60代で仕事を引退してから「時間があるから行ってみよう」という方もいますが、それだとあまり実りが少ないように感じました。
やっぱり何か目的があって、「こう変わりたい」「こう広げたい」という明確な目標がある方が、大学院生活は有意義になります。
「大学院を目指して自分の棚卸しを!」
A:なにより良いことは、大学院を目指すことで自分自身の棚卸しができることなんですよ。
大学院進学を考えることで、「自分には何が足りないのか」「何を得たいのか」が見えてくる。
だから年齢に関係なく、自分を見つめ直すきっかけとして、大学院はとても良い環境だと思います。
ぜひ「自分を変えたい」と思っている方には大学院進学をおすすめしたいですね。

早稲田で良かったことは?
――:ありがとうございます。ちなみに、Aさんご自身は早稲田でよかったと感じたことって何ですか?
A:やっぱり「人が集まる場所」だということですね。
早稲田は本当に年齢も職業も多様な人が集まってきます。
若い学生が、私のような歳上の人間と一緒に授業を受けることに全く違和感を感じていない。
最初はこっちが恥ずかしくなってしまいましたが、若い人たちもすごく自然に接してくれていて、そこに感動しました。
やっぱり一流大学には一流の人が集まってくる理由があるんだなと実感しました。
――:私も早稲田出身なのでそういうお話を聞けると嬉しいです。
「研究質訪問は絶対にしたほうが良いです!」
ーー:これから大学院を目指す方が気をつけたほうがいいことがあれば教えてください。
A:ぜひお伝えしたいのは研究室訪問は絶対に事前にしたほうがいいということです。
いきなり出願するのではなく、先生のゼミを見学したり、プレゼンをしたりして、自分の研究内容と先生の関心がマッチするかどうかを確認することが必要です。

私の通っていた大学院は今は倍率も上がっていますし、入試前から論文が書けるくらいの準備が求められていると思います。
私も入学前から1年ほどかけて準備しましたが、それくらいの努力は必要だと思いますね。
あらかじめ先生に自分を知ってもらい、関心を持ってもらう。
これが大学院入試では最も大事なことだと、今になって強く感じます。
――:本当にその通りですね。今日は貴重なお話をありがとうございました!
収録を終えて
Aさんも私も早稲田出身。
早稲田大学には「稲門会(とうもんかい)」というOB・OG組織があります。
地域や職種・サークルなど1300を超える稲門会が存在しているのです。
私も札幌稲門会に時折参加していますが、同じ大学・大学院を出た者同士のつながりを感じる楽しい機会となっています(もちろん、校歌を皆で歌えるのも魅力です)。
Aさんのインタビューにもありましたが、早稲田に入ると一気に人間関係が開けていくところがあります。
特に、社会人が多い分野ですと職種・立場・年齢を超えてのつながりが築けることで今後の人生も開けてくるところがあります。
こういうのも社会人が大学院に行く魅力と言えます。
確かに勉強は大変ですし、お金もかかりますがAさんのいうように「これから10年掛けて回収していく」思いで取り組むならば決して高くはない投資であるようにも思います。
今回、貴重なお話をお聞かせくださりありがとうございます!
今後も応援しています!
「社会人大学院生インタビュー」はこちら!
社会人大学院生Aさんへのインタビュー後編。Aさんはもともと工学系の大学院を出ていますが、50代で人文系の大学院へ進学。最初はこれまでの研究スタイルとの違いで戸惑ったと聞きますが、学びを通じて多角的な視点を得ることができたと言います。多角的な視点を活かし、新たな挑戦に踏み出されています!