質的調査のすべて|文系研究者が現場で使う代表的な手法まとめ【研究論文の書き方7】

summary

質的調査にはいろんな手法があります。半構造化インタビューや参与観察、当事者研究など。これらの特徴を見たうえで自分の研究したいテーマに合わせた手法を使っていきましょう!近年ではテキストマイニングを用い、量的調査・質的調査を融合するような研究も増えてきています。

研究の仕方から解説する「研究論文の書き方シリーズ」第7弾!

「どうやって研究論文を書けばいいかわからない…」

そんな声にお答えする「研究論文の書き方」シリーズ、今回もお届けします。

研究を進めるうえで避けて通れないのが「調査」というステップです。

前回の記事では、量的調査と質的調査の違いを中心に取り上げました。

今回はその続きとして、質的調査をどう実施し、どのように分析していくのかをもう少し具体的に見ていきましょう。

量的調査と質的調査の関係〜決して対立するわけではない〜

まずは前回の振り返りから。

文系分野においての調査方法は大きく分けて量的調査・質的調査の2つに分けられます。


量的調査とは、数値で示されるデータを集め統計的な処理を行う調査方法です。

アンケート調査などを通じて数百件、数千件のデータを収集し、平均値や相関関係を分析して全体の傾向や構造を明らかにするのが特徴でした。

いわばマクロの点からアプローチをするのが量的調査です。

一方、質的調査とは、数値では表現しきれない要素(感情・意識・行動の意味など)も言語化してデータにするという調査方法です。

対象者の語りや現場の観察記録をもとに、「なぜそう考えたのか」「どんな背景があるのか」といった個人の文脈や背景まで深く掘り下げられるという特徴があります。

ここで大切なのは、量的調査・質的調査のどちらかが“優れている・劣っている”わけでない、ということです。


それぞれに目的と得意分野があり、研究テーマに応じて適切な手法を選ぶことが重要です。

また、後ほど述べますが現在はコンピュータの技術が向上し、質的調査で得た言語情報を数値的に処理することもできるようになってきています。

(テキストマイニングは文字情報を数値的に処理できるので、量的調査・質的調査両方につながっている調査方法だといえます)

そうなると、量的調査と質的調査の本質的な違いが今後無くなっていく可能性も存在しています

なので量的調査・質的調査は決して対立する考え方ではない、と認識しておくのをおすすめします!

余談ですが、1回目の大学院修士課程時代、友人と「量的調査・質的調査どちらが優れいているか」で議論した記憶があります。

…よく考えると、不毛な議論に時間を使ってしまったな、と反省しています。

質的調査の基本形「半構造化インタビュー調査」

質的調査の中でも最も代表的なのがインタビュー調査です。


インタビューにはいくつかの形式がありますが、研究で多く用いられるのは「半構造化インタビュー(セミ・ストラクチャード・インタビュー)」です。

(半構成的面接法といったり、半構造型インタビュー調査といったりすることもあります)

この方法では事前にいくつかの質問項目を準備しておきます。

インタビューをする際はその質問項目を見ながら質問することになりますが、質問の順序や深掘りの仕方は柔軟に変えられるという特徴があります。

例えば通信制大学に通っている方へのインタビュー調査をする場合、事前に質問項目に次のような内容を書いていたとします。

(1)通信制大学への進学を決めた時期はいつですか
(2)通信制大学への進学に向け行った準備はなんですか
(3)通信制大学の進学に対し不安に感じた点はどこですか など

このとき、インタビュー対象者(インタビューイー)が自分から「自分は3年前から進学を考えていたんですけど、情報がないことや知人が誰も進学していないことで【自分は果たして通えるだろうか】と不安を感じていました」と語ってくれたとしましょう。

その場合、(1)と(3)の質問はもう聞かなくてもいい、ということになります。

(聞いても良いんですけど、その場合「さっきも言ったんですが…」とインタビューイーがイラッとする可能性もあります)

半構造化インタビュー調査では質問の順番を自在に変えられるという良さがあります。

半構造化インタビュー調査のポイントは「掘り下げ」です。

「なぜそのように感じたのですか?」
「そのとき、周囲の反応はどうでしたか?」

このようにインタビューイーの語りに対し「掘り下げ」を行うことで、語りの奥にある思いや構造を明らかにしていく事ができるのです。

ちなみに、「半構造化インタビュー調査」という仰々しい名前がついていますが、ふつうにインタビューをすると大抵は「半構造化インタビュー調査」的になります。

ポイントは「どのインタビューイーにも絶対聞くべき項目」を明確にし、「聞き漏らし」が内容にしておくこと。

インタビュー調査の際、つい脱線話で盛り上がり、「あ、聞きたいことが何も聞けていなかった…」ということがけっこう起こりがち。
なので注意が必要です…。

観察による調査「参与観察」と「エスノグラフィー」

インタビューだけでなく、現場を観察する方法も質的調査では非常に重要です。

観察には大きく分けて2つのタイプがあります。

  1. 非参与観察:研究者(観察者)が外部から観察者として現場を記録する方法。

    たとえば、授業風景を見学し、教師と生徒のやり取りをフィールドノートに書き留めることなどがあげられます。

    この時 研究者はあくまで「部外者」として存在しないかのように振る舞うことが求められます。
  2. 参与観察:研究者(観察者)自身がその場に入り、活動に加わりながら観察する方法。

    たとえば、研究者自身がフリースクールのスタッフとして一定期間活動し、現場の人々の関係性や価値観を体験的に理解していく手法です。

    この時 研究者も参加しながら観察をしていきます。


①の手法は観察者が「いない」かのように振る舞うのに対し、②では観察者が「参加」するなかでの対象者の様子を分析するという特徴があります。

①のイメージは学校での「研究授業」です。

小中学生の頃、教室の後ろにスーツを着た大人が後ろにズラッと並び授業を観ていた経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。

基本的に教育委員会や他の教員が授業の様子を観察し、気付きやコメントを後ほど共有するのが研究授業です。

このとき、スーツを着た大人は「存在しない」かのように振る舞っていたかもしれませんが、子どもに取ってみたらちょっと緊張や違和感を覚えていたかもしれません。

(教員もじゃっかん緊張しながら授業をするのでいつもと違う授業になっていた可能性が大きいです)

このことから言えるのは、観察者がいると集団の様子が変わるということ。

そこから①の手法は以前ほど多用されなくなってきました(それでも意味がある方法なので念のため)。

観察者がいるだけで集団の振る舞い方は大きく変化することから②の手法も重視されるようになってきています。

①に関し、近年ではビデオ撮影を行い、その様子を分析することで対象者の様子を観察・検討する研究も多くあります。
この場合、観察者が直接目の前にいないので日常の様子を観察しやすいというメリットがあります(なお、当然ながら事前に調査同意が必要です)。

この②の参与観察の発展形がエスノグラフィー(民族誌的研究)およびエスノメソドロジーと言われる手法です。


もともとは文化人類学の手法ですが、教育学や社会学でも広く用いられています。


研究者が長期間現地に滞在し、生活を共にすることで、メンバーの一員になっていくという調査方法です。

そのとき、研究者自身が何らかの「変化」「気づき」を得ることになります。

そこから得られる知見を言語化し分析できるというメリットがあります。

たとえば、以前紹介した佐藤郁哉さんの『暴走族のエスノグラフィー』では研究者の佐藤さん自身が「暴走族」のグループに「参加」し、一員となることによる変化・気づきを分析しています。

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さらにいえば、②の参与観察やエスノグラフィー・エスノメソドロジーには「調査対象者との相互行為」を分析するという視点もあります。

メンバーの一員として互いに交流する様子を記録することで、そこからの知見を描き出すことができるのです。

打越正行さんの『ヤンキーと地元』では沖縄の「ヤンキー」「ヤンチャ」な若者と関わる(打越さんの言葉では「パシリになる」)なかで徐々に信頼関係を構築する様子が描かれています。

その関係性があるからこそ、沖縄の若者の持つ苦悩や葛藤を如実に描き出すことに成功しているのです。

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若者の持つ苦悩や葛藤は「数値化」したとたんリアリティがなくなります。

(打越さんの本の言葉では)まともな産業が建築業しかなく、しかも公共事業が削減されている状態において仕事を見つけることは非常に困難です。

このリアリティすら描けるのが質的調査の大きな魅力であると言えるでしょう。

より深い関わりへ──当事者研究の魅力

質的調査の中でも、近年特に注目を集めているのが当事者研究です。


これは、自分自身の経験や生きづらさを「研究の対象」として扱うものです。

たとえば、北海道・浦河町の「ベてるの家」では、精神障がいを持つ当事者たちが、自らの症状や苦悩を分析し、共有する活動を続けています。

「自分の苦労を研究する」という行為そのものが、自己理解と社会理解の両方を深めるプロセスになっているのです。

このような研究は従来の“第三者による客観的観察”とは異なり、研究者=当事者という構図を取ります。

そのため、「主観的すぎる」「客観性がない」といった批判もありますが、そもそも“客観”とは何か、“誰が見るかによって世界がどう変わるか”という根源的な問いを私たちに突きつける研究でもあります。

当事者研究と似ているものにライフヒストリー研究があります。

これは「Aさん」「Bさん」といった1人の人物に注目し、その人が自分自身の人生を語る内容を細かく調査分析する研究手法です。

例えば「終戦直後の混乱を生き延び、戦後は不動産事業で成功したAさん」「男女差別が大きい時代を経験したBさん」などの人生を聞き取り、その人の生きた時代・社会状況を分析するというのがライフヒストリー研究になります。

これも当事者研究と同じく1事例(から数事例)しか提供できないという欠点はありますが、その人の持つ人生観や価値観・リアリティを研究できるというメリットがあります。

(私はライフヒストリー研究、けっこう好きです)

主観性と客観性のバランスをどう考えるか?

当事者研究に限らず、質的調査の世界ではしばしば「主観的すぎるのではないか?」という疑問が投げかけられます。


確かに、統計的な信頼区間や誤差を提示できる量的調査と異なり、質的調査は研究者自身の解釈が大きな役割を果たします。

しかし、ここで重要なのは「主観=誤り」ではないということです。


研究者の立場や経験が、むしろ新たな視点をもたらすこともあります。

フェミニズム研究や障害学などでは、「これまでの“中立的”とされてきた立場が、実は男性中心・健常者中心の視点だった」と指摘されてきました。

つまり、誰の視点から語るのかを明確にすることが、質的研究の誠実さにつながるのです。

なので質的調査を行うから「主観的であり無意味」というわけではないということを認識してみてください。

質的調査の多様な方法

ここで、ここまで挙げた質的調査の代表的な方法を整理してみましょう。

手法特徴具体例
半構造化インタビュー一定の質問項目を持ちながら柔軟に進める教員に「学級経営の工夫」を聞く
参与観察現場に入り行動や人間関係を観察フリースクールに通う子どもの様子を観察
エスノグラフィー長期間の参与観察を通じ文化を理解フリースクールスタッフとして子どもたち・他のスタッフと関わる
ライフヒストリー研究人生史を通して社会構造を読み解く教員や経営者のキャリア形成過程を分析
当事者研究自身の経験を研究対象とする精神障がい者が自らの体験を分析

このとき、下に行くほど参与度(と主観性)あがるという特徴があります。

ポイントは行いたい調査内容に応じて手法は様々ということ。

先行研究の検討後、先行研究の穴を埋められるような手法を検討し調査をしていきましょう!

言説分析・構築主義的アプローチの広がり

なお、現在注目されている手法に言説分析(ディスコース分析)があります。

これは人々の語りやメディアの言葉づかいを分析し、そこに潜む社会的な前提や権力構造を読み解く研究です。

クリぼっちの社会的構成〜「クリスマスを一人で過ごす=寂しい」はいつ構築されたのか?

たとえば、私の大学院のゼミの先輩が「クリスマスを一人で過ごす=寂しい」というイメージがいつから日本社会に広まったのかを分析していました。

その手法として、雑誌記事のタイトルを10年ごと分析していったのです。

この研究によると、1970年代の雑誌記事では「クリスマスは家族と過ごす」ことが中心で描かれており、「クリスマスを一人で過ごす=寂しい」という表現はなかった、といいます。

80年代の雑誌記事で「クリスマスは恋人と過ごす」ことが描かれだすようになってきますが、このときも「クリスマスを一人で過ごす=寂しい」という描かれ方はしていなかったそうです。

90年代になってはじめて「クリスマスを一人で過ごす=寂しい」という表現が現れてきた、といいます。


こうした研究を通じて、私たちが当たり前と思っている価値観が、実は時代とともに変化してきたことが明らかになるのです。

この言説研究、かつては研究者が1つひとつ記事を読んでいましたがいまはテキストマイニングツールを使い大量の内容を分析できるようになってきました。

最近ではSNSやニュースサイトなどの膨大なテキストを分析する計量的言説分析も登場しています。

ここまで来ると、量的調査・質的調査が融合している印象があります。

どの手法を選ぶかは「研究目的」から逆算する

ここまで多様な手法を見てきましたが、最も大事なのは「なぜその手法を選ぶのか」という点です。

研究に“正解の方法”は存在しません。


ただし、方法を選ぶ理由は常に明確に説明できる必要があります。
たとえば――

  • 「既存研究が量的調査に偏っているため、質的調査で深い理解を目指す」
  • 「対象者の体験を丁寧に記録し、言葉の背景にある構造を探りたい」
  • 「社会の変化を長期的に追うため、ライフヒストリーを用いる」

といったように、目的と手法を一貫させることが信頼できる研究の基本です。

まとめ!研究方法は“思考の器”

質的調査を学ぶと、「研究とは人を知ること」「社会を読み解くこと」であると実感します。


調査手法は単なる技術ではなく、どんな問いを立て、どんな現実を描きたいかを形にする「思考の器」です。

量的調査が「社会を俯瞰して見る」ものだとすれば、質的調査は「現場に入り込んで感じ取る」もの。


どちらも欠かすことはできません。

重要なのは、両者を対立的に捉えるのではなく、補い合うものとして理解する姿勢です。

次回はいよいよ、こうして得られたデータをどのように分析し、研究論文にまとめていくかという「分析方法の基礎」について見ていきます。

どうぞよろしくお願いします!

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