社会人として大学院で学んだ経験を持つ方々へのインタビューシリーズ。
第8弾は、北海道庁からの派遣で北海道大学公共政策大学院(通称HOPS)に通われている阿部大祐(あべ・だいすけ)さんのお話を伺います。
山に憧れ続け、いまも登山を続けられている首尾一貫な姿勢が伝わるインタビュー。3回に分かってお伝えします(中)。
(インタビュー実施日:2024年5月10日)
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☆3回に渡るインタビューシリーズ(上中下の)。上はこちら↓
☆動画でもお届けしています。
勉強より登山の大学時代。
ーーここまで、登山道整備が大雪山などの植生保護につながることについてお話を伺ってきました。
阿部さんはなぜこのテーマに興味を持たれたのでしょうか?
北海道庁のなかで登山道保護のような自然保護分野の業務を行っていらっしゃったのでしょうか?
阿部:実は行政の仕事としてはこれまで全くやった経験がないんです(笑)
ですが、私はもともと登山が趣味だったんです。
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(本人提供)
地元が旭川なので私が高校生の頃から地元の山に登るようになりました。
大雪山もその頃から登っています。
大学進学後も、どっちかというと勉強より登山に力を入れていました(笑)。
なので山から学んだことって非常に大きいなと思っています。
ーー山男的な感じですか?
阿部:はい、山男です。
ーーではこれまで大雪山に限らず、色々な山を登られてきたのでしょうか?
阿部:学生時代は特に頻繁に登っていました。
国内に限らず、海外の山にも2回行きました。
ーー海外ですと、どういうところにいかれたんですか?
阿部: 19歳の時に初めて海外で登ったのがヨーロッパのアルプスです。
モンブランにも登りました。
あ、ケーキのことじゃないですよ(笑)
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(モンブラン山 本人提供)
ーーモンブランですか!
たしか、ケーキのモンブランは山の形を模しているからモンブランっていうんですよね。
阿部:モンブランのほかにもマッターホルンにも登っています。
(両手の指先を合わせ三角形を示しつつ)マッターホルンってこういう尖った山なんですよ。
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ーーへ〜、こういうところって普通の人でも登れるものなんですか・・・?
阿部:はい、登れますよ!
後半は崖と岩登りになりますけどね。
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(マッターホルン山頂写真 本人提供)
ーーなるほど〜! その経験が今の研究テーマに活きているんですね〜!
ちなみに登山道保護というのは大雪山のような国立公園の場合、国が全部やっている感じなのでしょうか?
阿部:基本的には環境省が行っています。
ただ、現地に事務所があるわけでないので環境省が立てた登山道整備基準に基づいて整備が行われています。
フィールドワーク!大雪山に何度も!
ーーフィールドワークの関係上、阿部さんの研究では大雪山に何度も行かければならない感じですか?
阿部:そうなんです。すでに昨年も行っていますよね。
実際の登山道整備のために4〜5回大雪山に行っています。
重い荷物運んだり、木道をトンカチで作ったり。
ーーすでに整備する側として取り組まれているんですね!
これはボランティアですか?
阿部:完全なボランティアです。
ーーすごいですね〜!。
阿部:手弁当でやっています。
現地の大雪山まで自分で運転して向かっています。
ーーそういうふうに市民の力といいますか、ボランティアの人たちの力で整備を行っているんですね!
阿部:そうなんですよ。
この登山道の整備自体を請け負っているのは環境省ですとか北海道庁なんですけど、実際の整備を担っているのはボランティアの人が多いんです。
ーーこのボランティア頼みの登山道整備の方向性が現状のままでいいのかどうか、あるいはもっと別の環境保護のあり方ができるのか、みたいな研究になるんでしょうか?
阿部:はい、そうなると思います。頑張りどころですね。
ーーちなみにどんな感じでボランティアって行っているんですか?
登山道整備ってボランティアの人たちが熱心に取り組んでいます。
非常に熱い人たちが多いですね。
45キロの荷物を背負っての登山…!
ーーどんな形で整備を行っていくんですか?
阿部:木道整備に使うための素材を背負って登っていくんですが、
これ、45キロくらいあるんです。
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ーー45キロも!
阿部:これを背負って3時間くらい山を登っていくんですが、
それだけでもうクタクタ。
そもそも45キロの荷物って自分1人では背負えないことが多いんです。
人に手伝ってもらって背中に乗せます。
バランスを崩すともう本当にゴロンと転がってしまうと思います。
これ、実際にやるとめちゃくちゃつらいはずなのに、私も含めてですけど、みんなやりたくてしょうがないんです。
ーーそうなんですね! 阿部さんのような山男の人が集まっているんでしょうか?
阿部:はい、体力自慢ですとか、トレイルランニングをやっている人なども集まっていますね。
身体を使いたいという人が多いです。
根底にあるのはみんな山が大好きということ。
山のために、自分の力を活かしたい人が手を挙げて参加しています。
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ーーそういう人たちが登山道保護を通して自然を守ってくださっているわけですね。
阿部:そうなんですよ。
こういう大変な業務なんですけど、本当にやりたいという熱意ある人に支えられているんです。
ーーけっこう年齢層も広いんですか。
阿部:とても幅広いですね。
20代から60代くらいまで広まっています。
もちろん、60代ですと荷物は少し軽くなりますが、一番やる気と体力のある30代の人たちは45キロくらいを背負います。
ーーこういう大変な作業を地道に取り組んでいらっしゃる方々が自然を守っているんですね…!
あえて困難な道を!
ーー北大の公共政策大学院の場合、修士論文に当たる「リサーチペーパー」を提出する必要があります。
リサーチペーパーは2単位と8単位どちらかを選べるんですが、8単位のリサーチペーパーのほうが高い水準が求められます。
阿部さんのように1年制修士の場合、一番負担が重い8単位のものを受講する必要があります。
この場合、実地調査も必要になるわけですね。
なのであえて困難な道を行かれるという点で、登山家のような感じですね。
阿部:あえて頂上目指していきます。
植村直己に憧れて。
ーーいや〜、すごいですね!
横でお話していて阿部さんが身体を非常に鍛えていらっしゃるのが伝わってくるんですが、身体を動かすのって昔からお好きだったんですか?
阿部:もう高校ぐらいからずっと山に登っていました。
大学時代もずっと登っています。
岩登り・スキーなども含めてですね。
ーーそういえば、阿部さんは明治大学ご出身ですね。
有名な登山家・植村直己(うえむら・なおみ)さんはちょうど先輩に当たりますね!
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阿部:実はそうなんです。
ーー同じ部活ですか?。
阿部:はい、同じ山岳部です。
たまたま植村さんがいたわけではなくて、高校2年生の時に近所の本屋で植村直己さんの本を読んで「これしかない」と思いました。
それで明治大学に行こうと思ったんです。
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手段だった登山が目的に変わった…!
阿部:山登りを始めたきっかけは「将来 考古学者になりたい」と思ったのがきっかけだったんです。
考古学ってけっこう山や林に入ったりするので、「考古学に関係しそうなスポーツって何かないかな」って高校に入った時に考えたんです。
なので、それまでやっていた野球ではなく山岳部に入ることにしたんです。
要は登山を目的ではなく手段としては始めたわけですね。
ですが、高2の時に植村直己さんの本に出会ってしまって、それ以来「これしかない」と。
登山という手段が目的になってしまったんです。
手段が目的になるという、一番ダメなパターンですね(笑)
ーーいいと思いますけどね〜。
山男の人たちって登るのが目的ですからね。
登山のストイックさが今回の大学院進学に繋がっていらっしゃる気がしますね。
阿部:ありがとうございます。コツコツやるのが昔から好きなので。
ーー登山って無理したら死んでしまうリスクもあるので、ぜひペースを守ってやり、しっかりやっていただければと思います。
阿部:勉強もそうですね。コツコツやりながらも生活を大事にしつつ進めたいなと思っています。
「公のために働きたい」との思いで道庁に。
ーーちなみに北海道庁に入られたのはどういう理由からなんですか?
阿部:実は大学時代に山登りし過ぎてしまい、卒業と同時にニートというか、無職になってしまったんです(笑)。
ーーそうだったんですね。
阿部:自分が働くというイメージが全くなかったので、「これからどうしようか」と思った時、何かこう、公(おおやけ)のために働けたらいいなと思ったんです。
その時、どうせ働くんだったら、子どもの頃暮らしていた北海道で働くのが良いんじゃないかと思って北海道庁の試験を受けました。
ーー阿部さんや私の世代って、不景気な時代ですよね。
その時代に公務員を受けるのって大変だったじゃないですか?
阿部:「失われた30年」という言葉がありますが、まさにその渦中なので大変でした。
ちなみに当時は「失われた20年」って言っていましね。
そういう時期でしたので非常に倍率も高かったんです。
ーーそうなんですね!
勉強で道なき道を行くというのをやってらっしゃるのが素晴らしいなと思います。
☆インタビューシリーズの第3弾(下)に続きます。
☆これまでのインタビューはこちら↓
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旭川出身。高校時代から登山に目覚め、明治大学在学中は国内外の山に挑み続ける。北海道庁入庁後は観光局など多方面で勤務。外務省出向でモスクワの日本大使館でも勤務。2024年度からは道庁の「企業等・大学院派遣研修」の一環で北海道大学公共政策大学院に進学。