極限状況を生き延びる情熱を、角幡唯介『極夜行』で学んだ件。

今回のポイント

ふだんの自分が読まない本を読んでみる。
視野が広まり、発想も深まる!

極夜(きょくや)を知っていますか?

あなたは
極夜(きょくや)を知っていますか?

白夜(びゃくや)については知られていても
「極夜」について知っている方は
少ないかも知れません。

北極圏や南極圏近くでは
夜になっても太陽が沈まなくなる
「白夜」という現象が生じます。

極夜はその逆で、
一日中太陽が一度も姿を表さないという
状態です。

地域によっては
太陽が出ない状態が
数ヶ月続くといいます。

この極夜のなか、
大自然の中で
ひとり犬ぞりで移動をする。

こういう想像をすると
「すごく大変そうだな」という思いが
してきます。

『極夜行』を読んでいます

そんな大冒険を描いた『極夜行』という
ノンフィクション作品をいま読んでいます。

探検家・角幡唯介さんが
2016-2017年、
グリーンランド北部を実際に探検し、
自分が経験したことを等身大の視点で
克明に描いた作品となっています。

 

 

 

トラブルにつぐトラブル。

この旅、
恐ろしいほどアクシデントが続きます。

GPSを使わないと決めていたので持参せず、
大航海時代の航海士のように
六分儀という器具で自分の場所を測量しようとした著者。

ところがこの六分儀がなくなってしまい、
あるのはコンパスと星座を見て方位を確認する方法のみ。

そればかりか、
準備していた食料がセイウチに奪われ、
たどりついた山小屋もホッキョクグマが襲撃して
食べ物がろくに残っていない…。

アクシデントにつぐアクシデント。
トラブルにつぐトラブル。

でも、それでも探検を続けなければ
生きて日本に帰ることはできません。

そんな極限状況を生き延びようとする
情熱に心打たれる本です。

妄想広がる1冊。

と同時に、
真っ暗闇の雪道をひたすら進み続ける著者の
「妄想」が至るところに描かれます。

「星を見ながら私はまた
 妄想にふけった。

 暗くて、寒くて、何もない空間で
 単調な肉体運動をつづけていたので、
 気付くと意識が浮遊して思考が現実から
 乖離してしまう」
 

『極夜行』文集文庫, Kindle版No.1462/4834

眼前に広がる星座をみながら(極夜なので昼でも星が見えます)、
自分が住んでいる東京の地図を思い描きます。

「出発直後の正面の星空で目立つのは
 馭者(ぎょしゃ)座のカペラだ。
 
 星星を政治的に支配する北極の権力者、
 夜空の内閣総理大臣である。

 カペラはその日もまた、
 ただ明るいだけの権力志向のつよい
 凡庸な光を放ち私をうんざりさせた。

 そのカペラを中心星とした五角形の
 馭者座キャビネットを眺めながら、
 私は、馭者座が内閣ということは要するに
 内閣府がある場所であるわけだから、
 あの辺が永田町・霞が関界隈ということになるなぁなどと、
 うすぼんやり夢想していた。

 馭者座が永田町・霞が関界隈となると、
 当然、オリオン座は軍隊なのだから防衛省で、
 その場所は市谷ということになる。  
 
 馭者座とオリオン座を見ながら、
 気付くと私は夜空の星々の相関図を
 東京の地図に当てはめて妄想するという、
 どうでもいい物語行為に没頭していた」

『極夜行』文集文庫, Kindle版No.1462-1468/4834

犬1匹だけを連れ、
たった1人で北極圏を冒険するという挑戦。

気温マイナス40度の世界で
自らの身体で移動を敢行する。

そんな過酷な合間の妄想が
自分を慰めてくれたのだと思います。

今回のポイント


ふだんの自分が読まない本を読んでみる。
視野が広まり、発想も深まる!

以前、記事の中で
「読む本の幅を広げる」大事さを
お伝えしました。

 
  

『極夜行』のような冒険ドキュメンタリーって、
ふだん読む機会なんて
ほぼないタイプの本だと思います。

でも、だからこそ
自分の視野を広げるのに役立つのですね。

特に、一日中太陽が昇らず真っ暗闇という極夜は
読み手に強烈な印象を与えます。

「毎日、太陽が昇り、夜は人工灯にかこまれ、
 常時、明かりの絶えないシステムの中で暮らす現代人にとって、
 24時間の闇が何日間もつづく極夜は
 想像を絶する世界であり、
 完璧にシステムの外側の領域である。

 わけの分からない世界である。
 
 極夜世界においては、
 極夜そのものが未知であるのはもちろんのこと、
 極夜に付随する諸々もまた現代人にとっては
 未知である。

 現代人は常に明かりにかこまれ、
 人工的に発生させたエネルギーで文明生活を享楽し、
 その意味で知覚能力および感受性が鈍麻しているため、
 夜、昼、太陽、月、星、光、闇といった現象や
 天体の本質的な意味がわからなくなっている。

 下手すれば、それらは生活の中になくても
 困らないんじゃないかとさえ考えられるようになっている。


 だが、極夜世界では現代システムでは
 非本質的とみなされるようになった光や闇や天体といったものが、
 本質的存在として私の旅の継続の、
 もっといえば私の命の鍵を握っている。
 
 もし私が今度の旅で現代システムから
 うまく外に飛び出して、
 極夜世界に入りこむことがでできれば、
 それは現代人にとって無意味なものとなり果てた
 夜や昼や太陽や月や星や、
 そしてそれらを総合した光と闇の意味を知る旅になるはずだ」

 

『極夜行』文集文庫, Kindle版No.1941-1947/4834

こういう極限状況の文章を読むことで
いまの自分を相対視することが出来ます。

だからこそ、
違う発想や発見を得ることが出来るのですね。

本書『極夜行』は
極限状況でのやりとりが
ユーモアも入れながらまとめてある本なので
面白く読める本となっています。

読んでみると楽しいですよ!

ではまた!


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