社会人大学院生インタビュー5インクルーシブなスポーツクラブを47都道府県に広げたい!早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了・塩家吹雪さん(前編)

社会人として大学院で学んだ経験を持つ方々へのインタビューシリーズ
第5弾は、スポーツにおけるインクルーシブ教育に長年携わり、本年3月に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了した塩家吹雪(しおや・ふぶき)さんのお話を伺います。(前編)
(インタビュー実施日:2024年4月19日 Zoom)

塩家吹雪さん

千葉において障がいのあるなしにかかわらず皆がともにスポーツに取り組むNPO法人シオヤレクリエーションクラブを理事長として運営。パラスポーツに20年以上関わり、世界陸上やパラリンピックに伴走者として選手の入賞に貢献するほか、日本代表チームの監督・コーチとしても活躍。忙しい時間をこじ開け2023年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コースに進学し、2024年3月に修了している。

仕事も研究も、体力が一番大事!

ーー塩家さん、お久しぶりです!
塩家さんには以前もうちの塾のYouTubeにもご出演いただきましたね。

今回もお話を伺えますこと、楽しみにしています。
よろしくお願いいたします。

塩家:よろしくお願いします。

ーー塩家さんとは今年の3月に札幌に来ていただいた際、一緒に楽しく飲んだというのが非常に印象的です。
これ、確か早稲田大学大学院の卒業式前日でしたね(笑)

(塩家さんInstagramより)

塩家:体力には自信があるんです(笑)
仕事をするのにも研究するのにも体力が一番重要だと思っていつも頑張っています。

「インクルーシブ教育に20年以上関わってきました」

ーー素晴らしいですね。
ちょうど最近インクルーシブ教育というものが注目されています。
これは障がいのあるなしにかかわらず、一緒に学ぶというものですね。

以前のインタビュー記事もご参照ください↓

そんなインクルーシブ教育の理念をスポーツクラブを舞台に行っていらっしゃるのが塩家さんです。

これまでもパラリンピック出場選手のサポートという形で一緒に試合に出場したり監督・コーチとして関わるなどの活動を長年なさってきました。

その点でパラスポーツに長年造詣がある方です。
そんな塩家さんは2023年の4月に早稲田大学のスポーツ学研究科に進学され、1年間で修士課程を卒業(修了)なさっています。

まさに卒業ほやほやのタイミングで塩家さんからお話を伺えること、大変楽しみです。

ところで、塩家さんがパラスポーツと関わるきっかけのようなものは何だったんですか。

塩家:私はスポーツクラブが法人化する前から「障がいのある子とそうじゃない子が一緒にやれるような環境を整えるのが非常に大切だ」と思ってきました。

そんな折、同好会のような形でスポーツクラブをつくっていた際、たまたま視覚障がいの方が入ってきたんです。それがきっかけですね。

別に障がいがあるとか、そういうことじゃなくて結果として障がいを持っている人がクラブ来ただけなので、仲間内で一緒に楽しくやろうよって声掛けをした感じです。
やってきた選手がたまたま視覚障がいを持っていただけなんです。

ーーそうなんですね!
塩家さんは世界陸上やパラリンピックに出場している選手と深く関わってこられたそうですね。

塩家:はい、うちのクラブでは2000年から障がい者と健常者が一緒に取り組むようになったんですけど、翌年の2001年、カナダのエドモントンというところで世界陸上が行われたんです。

そのときエキシビジョンレースにおいて全盲クラスの100メートル走に出場し、そこで銅メダルを獲得しました。

視覚障がいを持つ選手の横で一緒に伴走して勝ち取りました。

その3年後の2004年、アテネのパラリンピックにも伴走者として出場し、そのときはめでたく準決勝・決勝と勝ち上がって決勝で8位入賞ですね。

ーーすごいですね!

塩家:伴走者としては他にも幾つも結果があります。

例えば視覚障がい者だけの国際大会のリレー種目でメダルを取ったこともあります

2012年のロンドンのパラリンピックでナショナルチームのコーチをやらせていただいて、その前後もコーチとか監督とかをやらせていただいていました。

かれこれ10年ぐらい監督とコーチをやらせていただきました。

ーーそういう指導者としての実績が長いのが素晴らしいですね!
ちなみに、その指導者をやりながら、確かサラリーマンの生活もしていたというふうにおっしゃっていたかと思います。

塩家:そうですね、普通に生協の職員として朝から夕方まで配達や営業などで働いてから、夜の空き時間でトレーニングをしたり、指導をしたりしていました。

ーーなるほど、そういう状態から現在はシオヤレクリエーションクラブを作って独立をなさったわけですね!

クラブ運営がちょうど軌道に乗ったタイミングで、今度は大学院も挑戦すると。

塩家:そうですね。

ーー一つのことをずっとやり続けてきて結果を出していらっしゃる点で私も塩家さんを憧れの人だと思っているんですけれども、わざわざ大学院進学を考えられたのって何か理由があるんですか。

塩家:ちょうど私がパラスポーツに関わりはじめて20年くらい、障がい者・健常者が一緒にスポーツをすることに取り組んでいるんですけど、残念ながらこの理念って広がっていないんです。

一部の人たちで盛り上がってますけど、実際あまり全国的に広がっていませんでした。

障がい者・健常者が一緒にスポーツを行う活動がなぜ広まらないのかをこの数年ずっと考えていました。

そうであればやっぱりしっかりした論文だとか、さらには研究を一緒にやり、調べながら発信していく必要があるんじゃないかと考えたんです。

いろいろ試行錯誤しながらやってきて、うちのスタッフにも相談をして「どこかいいところないかな」と探していました。

そんなとき目に留まったのが大学院進学という方法です。

さらに調べていくと、早稲田大学大学院のスポーツ科学研究科だと1年間で修士課程2年分の内容をしっかり学べることがわかりました。

学校の先生方が出された論文とか研究とかを調べる中で、「ここの大学院でやればしっかり学べるんじゃないか」と考えて進学を決意しました。

間野先生から学んだこと

ーー塩家さんが教わった間野先生、ちょうど塩家さんの代が早稲田で教える最後の1年だったそうですね。
その後、大出世なさってますよね?

塩家:びわこ成蹊スポーツ大学の副学長になられて、この7月から学長になられるんです。
間野先生には1年間本当にたくさん叱咤激励をいただきました。

ーーそうなんですね!
そういうすごい先生を見つけられるのも1つの才能だと思います。
塩家さんが大学院生活の中で一番学べたというものはなんでしょうか?

塩家:なんといっても間野先生から物事を俯瞰して見る大事さを知りました。
一方向からの考え方はあくまで自分の感想に過ぎないよ、というところをしっかり教えていただいたんです。

間野先生のおかげで今後の活動や自分の価値観を見直すよいきっかけをいただけたのではないかというふうに感じています。

この俯瞰というのは本当に大事でして、大学院では下は30歳・上は68歳と幅広い層の方が院生としていらっしゃいました。
それぞれ箱根駅伝の大学で監督を今度やるような方だとか、スポーツ選手のトレーナーだとか、学校の先生だとかいろんな方がいらっしゃいました。

それぞれからの情報や知識を共有する機会が本当に多くて大学院にいくことで多様な価値観を学ぶことができました。

やっぱり大学院って学ぶ人の考え方がそもそもレベルが高いので、単純に勉強するというものではなくて、院生同士で学び合えることが多くあります。

それぞれ自分がやってきたことをさらに深掘りするとか、研究の幅を広げるとかをやっているのを知り、自分の世界が広がりました。

素晴らしい方が集っていて、本当に恵まれましたね。

ーーけっこう飲み会もみんなで行っていらっしゃったのでしょうか?

塩家:はい、毎週ゼミの後は居酒屋に移動して話してました
同期も結構仲がいいんで、集まる機会が多くありました。

ーー以前、東京でご一緒させていただきましたね。
その時、何かコードネームのように呼び合っていましたよね。
例えば塩家さんの専門分野から「インクルーシブ塩家」って(笑)。

仲の良さを実感しました。

本来2年の学習を1年で。しかも仕事をしながら。さらに学会発表も!

ーー私が塩家さんを尊敬しているところは1年制修士を仕事しながら、しかもハードに運動しながらきちんと1年間で修了なさったというところです。

これ、本当にすごいなって思うんです。
というのは、修士課程の内容を働きながら通常通り2年間で修了するのも大変なんですけど、それを1年に凝縮して通ってらっしゃったからです。

つまり普通の人の2倍の内容をやりつつ、しかも仕事もしているっていうのが本当驚異的だなと思っています。

中には1年間会社を休んで学んでいる人もいるくらいなので、1年間仕事しながらやり切られたのが本当にすごいです。
その際、大変だったところは何でしょうか?

塩家:やっぱりレポートだったり、授業だったり。
授業が夜あるんですけど、夜もちょうど僕がやっているクラブのスクールがあり、土日もスクールがあるんです。

なので時間の配分が難しかったなっていう感じがしますね。
スタッフの協力も得ながらなんとかやりきれました。

ーー塩家さんの場合、クラブの運営もありますし、スタッフの方への指示も必要ですよね。
あとは関わっているお子さんであるとか関わる人も多いですよね。
さらには仕事と勉強をしつつも在学中に学会発表もなさっていますよね。

このご活躍がすごいですね!

塩家:インクルーシブ教育ってあまり日本では広まっていないんです。
なので、実際にインクルーシブな形でクラブ運営しているところの活動を事例研究として学会発表するのは非常に重要だと思っています。

色んな先生を大学の先生方からご紹介いただいたり、自分で今までお世話になった先生に直接連絡をしたりすることで、いくつかの学会で発表をさせていただきました。

ーー大学院に入ったからといって勝手に学会発表の機会があるわけではないので、塩家さんのアクティブさが素晴らしいと思います。

塩家:あ、そうなんですか。けっこう僕からあちこち行ってましたけど。

ーー本当にすごいことだと思います。
大学院に入ったら勝手に学会発表の機会があるだろうと思っている人もいるんですけど、そうじゃないんですよね。

自分からの働きかけやそれまでの取り組みへの評価が必要であることが多いです。

1年の間で働きながら修士を取るだけでも大変なのに、ちゃんとで学会発表もして論文投稿もしてというのが塩家さんの凄さだと思います。

その上書いた修士論文が優秀論文に選ばれるという快挙を成し遂げられたことを考えると、ホント「超人」みたいな感じですよね。

塩家:いえいえ、皆さんの協力のおかげです。

ーー昔ながらの言い方をすると、文武両道を実現なさっているということなので私自身本当にすごいなと思います。
塩家さんは当たり前のように3時間睡眠で頑張っていらっしゃいましたよね。

塩家:睡眠時間が削られるのはまあしょうがないですよね。
多分私だけじゃなくて、もう同期のメンバーなんかもけっこう睡眠を削って頑張っていました。

インスタでつながれているメンバーの投稿を見ると夜中の1時半とか2時頃にパソコン画面の投稿が出てきたことがあったので「みんな頑張ってるんだな」って感じましたよ。

ーー「みんな頑張っているな」って思いがプラスになっているのが面白いですよね。

ちょっと聞いたところでは、この1年間の修士課程が終わった後、塩家さんのゼミの同期の人が経営している会社に同期のメンバーが入社するケースがあったそうですね。

塩家:同期が同期の会社に入るというケース、実際にありました。

そういったいい意味の相乗効果も大学院にはあるのだと思います。
大学院の内容が実践に役立つ学びになっているので、僕は非常にいいことではないかと思っています。

修了証書を受け取ったときの気持ち

ーー修了証書(学位記)を受け取るとき、どんな気持ちでしたか?

塩家:何かもう、何とも言えない気持ちですよね。

なんて言うんですかね、僕は幼少の頃、家庭環境があまり良くなくてすぐ大学に行けなかったんです。
かなり歳を取ってから、大学3年次生として編入して大学を卒業しました。

こういう経験もありましたし、また早稲田の修了までには本当に周りの協力が大きかったので修了証書を受け取るとき様々なことが頭に浮かびました。

修了式は本当に感慨深い時間でした。

(本人提供)

ーー学位記を持って学帽とガウンを着ている塩家さんの写真、すごくかっこいいですね!
本当に1年間やりきったという表情が見て取れて本当に素晴らしいなと思います。

(後編はこちら↓)

☆これまでのインタビュー記事はこちら↓

☆塩家さんは以前テレビの企画で
松岡修造さんとも対談なさっています↓


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