社会人で大学院を目指す場合、なかなか情報が不足しがちです。
進学のイメージを掴むには、実際に大学院に通っている方の体験談を読みのが一番です。
そんな思いから、社会人大学院生の方にインタビューを行っていくシリーズ。
第1弾は元特別支援学校校長の西牧孝徳さんのお話を聞いていきます。

(インタビュー実施日:2024年4月2日)
目次
進学を決めたタイミング
−−西牧さんは支援学校で校長先生を務めていらっしゃったと聞いたのですが、西牧さんが大学院進学を考えたのってどういうタイミングなんでしょうか?
西牧:校長を勤めながら退職目前の時期ですね。
退職後 その先自分は何ができるかなと考えたときに、1つの選択肢としてこの大学院進学というところを考えました。
ただその時にいろんな候補があって迷いました。
北海道教育大学の大学院もあるし、北大には教育学研究科という大学院もあるし、教育系の大学院に行くのかどうか考えていたところでした。
私が研究したかったのはインクルーシブ教育についてです。
教員として仕事をしている時、障がいのある子もない子も一緒に学ぶというこのインクルーシブ教育について取り組んできました。
長年かけてきたけども、どれぐらい進んできたのかなという手ごたえがなかなか感じられなかったところでした。
それでインクルーシブ教育を政策的にどう進めていくのが良いのかいう視点に立った時に、教育の大学院ではなく、やっぱり公共政策の大学院で学びたいと言う思いが強くなったところでした。

−−公共政策大学院の存在を以前から知ってらっしゃったんですか?
西牧:調べたところ、たまたま北大公共政策大学院がヒットしたんですね。
教育系の大学院だと障がい児教育という単独で存在し、そればかりを研究することになります。
私はその内容だけを学びたいわけではなくて、通常教育の中でいかに障がいのある子も一緒に学べるようにするのかという観点で見たときに「もう少し幅広く見ていかなければいけないな」と思ったんです。
「専門性の高い知識経験を持っている方が多くいる」
−−これまでの経験を活かしながら進められているというのが大変素晴らしいですね。
実際に1年間通ってみていかがでしょうか?
西牧:公共政策大学院に通う院生の方は、それぞれ学びのテーマを持っている方がほとんどですし、専門性の高い知識経験を持っている方が多くいる印象です。
これは学部からも上がってきたストレート組の方もそうですし、もちろん社会人学生の方や留学生の方もそれぞれ豊かな経験値を持っていますね。
話していて本当に楽しいです。
それから、大学院の先生方もまさに専門性が高い先生方ばっかりです。
この中で学べるっていうのは、私にとってはもう贅沢な環境だなぁというふうに感じて、1年間過ごしました。
−−印象に残っている授業はありますか?
西牧:福祉分野に興味を持っているので、やはり福祉に関した講義が印象に残っていますね。
具体的にいえば「福祉労働政策事例研究」という授業でしょうか。
この講義は毎回実績のある外部講師がゲストティーチャーとして話してくださいます。
実践されている話を生で聞けるという貴重な機会となっています。
講義の中で直接質問質疑応答の時間も取っていただけます。
これを受けただけでも、私はこの公共政策大学院に来た価値があるな、というふうに思いました。

「大学院に入って良かったことばかり」
−−大学院に入って良かった点はどういうところでしょか。
西牧:もう良かったことばっかりです(笑)。
同じ期の院生同士で親睦を深めることもできています。
また、その上の代の先輩方ともいろいろ交流することもできました。
そこから学ぶところはもう数知れず。
それぞれの人が持っているフィールドというのが深いなぁ、と感じています。
いま自分の子どもよりも下の世代の方と一緒に勉強していますが、やっぱり皆さんすごいしっかりしたものを持っていらっしゃるのを感じます。
いろんな内容を学べる面白みがあります。

−−逆に、大学院に入って良くなかった点はどういうところでしょうか。
西牧:う〜ん、考えると悩んでしまいますね。
強いてあげると、経験のない新しい専門分野について学ぶのはついていくのがけっこう大変だったなあ、と思っています。
定年退職すると気持ちが緩んでしまう?!
−−学校の校長先生を退職なさったということで、他にもいろんなキャリアのルートがあったと思うんですけど、その中であえて定年退職後に進学をなさったのはどうしてでしょうか。
(注 定年退職後も教員として再雇用されるケースが多くあります)
西牧:こういったら語弊あるかな…。
やっぱり、定年退職をすると気持ちが緩んでしまうのを感じています。
定年退職をして達成感というか、やり切った感を持つというのは皆さんあると思うんです。
定年退職をしてゴールを切ったような感覚なんだけども、いま人生100年時代ですよね。
人生100年の残りさらに40年をどう生きるかって考えたときに、もう一回学んでみるのがすごく大事になってくるように思うんです。
これから学び直しという違った視点で勉強するということは、自分の残りの人生を豊かに生きていく経験になっていくのではないかと思います。
大学院を目指した理由を他に考えますと、「やり残した感」があるからでもあります。
これまで長年 特別支援教育に関わってきたんですけど、インクルーシブ教育や共生社会に関しては何も世の中が変わっていないという思いを強く感じたためでもあります。

「自分が仕事についてからの30年でインクルーシブ教育はどう変わったのか」と考えると確かに制度上は良くなった点もありますけど、あまり変わっていないという感じがあります。
「やり残した感」があるからこそ、大学院を目指したというところが大きいです。
「フィールドを持ちつつ、研究をしたい」
−−今後、大学院を修了後 考えてらっしゃる目標などはございますか?
西牧:大学での教鞭を取り、後進を育成するのが1つ大きな役割だと思っています。
それから、学問上の理論だけでなくて、実践が伴わないといけないなと感じています。
実践上のその裏付けがなければ、ただの絵に描いた餅になってしまうので。
なので実践するフィールドを持ちながら教える立場・研究する立場に就きたいと思っているところです。
探してみますといろんな分野に成功事例がありますので、そういうところを取材しながらどこかで私も関わっていければいいかなと考えています。
いま注目しているのは障がい者や高齢者が活躍するというコンセプトで多様な取り組みをしている場所ですね。
こういう実践をどうやって広げていけるか考えていきたいです。
実際に動き出し、これからアポ取って何かお手伝いさせてほしいっていうところから始めていきたいですね。
大学院を目指している人へのアドバイス
−−社会人の立場で大学院進学を目指している方になにかアドバイスはありますでしょうか?
特に定年退職後 進学を目指す方へのアドバイスをお願いします。
西牧:社会人としてそれぞれの経験を積んできた上で、これからの人生をどう豊かにバージョンアップしていくかを考えたとき、学び直しっていうのはとても大事になってくるのではないかなと考えています。
「65歳になったら年金が当たるからもう働かない」っていう方がいま多いと思うんです。
「働いたら年金が減るから無駄だ」とか「もったいない」とか「損する」とか、そういうマスコミ記事なんかもあるようにマイナスイメージで捉えられがちです。
でも、逆に年金もらいながらもう働き続けるっていう視点は貴重だと思うんです。
これまでと比べてそんなに働かなくてもいいから、自分のこれまで経験してきたことを社会のためにどう活かしていくか、そのためには何が必要なのかという視点を持ち、学んで実践してほしいなと思います。
これから人口も減り高齢化が進んでくる中で、こういう働き方がもっともっとこれが当たり前になっていくと思いますね。
80歳になってもやりがいを持って仕事していける社会がいいのでは、と思います。
そうすることによって健康寿命もさらに伸びていけるんじゃないかな。
ちなみに、社会保障ってかなりの金額になっているんですよね。
しかもその医療保険や介護保険に係る厚生労働省の予算もかなりの額あるんですけど、みなが健康に過ごすことによってその予算を教育などもっと他のところに回せるんじゃないかと思っています。
−−西牧さん、ありがとうございます!
インタビューを終えて
西牧さんは私と同じく北大公共政策大学院でともに学ぶ仲間でもあります。
(公共政策大学院の同期です)
私も教育関係者(元高校教員)であるため、インクルーシブ教育についての話を深く聞けて大変勉強になりました。
印象に残ったのはインクルーシブ教育についての「やり残した感」が進学につながった、という点です。
定年になって終わりではなく、むしろいまからこそ積極的に学び世の中を変革しようとなさっている姿勢に感銘を受けました。
西牧さん、インタビューへのご協力ありがとうございます!

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特別支援学校で校長を務め、定年退職後2023年に北海道大学公共政策大学院 公共経営コースに入学。現在、修士課程2年生。大学院では自治組織である「院生協議会」メンバーとしても活躍中。