社会人大学院生インタビュー2 仕事での海外経験を、学問の世界に還元したい。愛知大学大学院中国研究科在学・武藤裕幸さん

社会人として大学院で学んだ経験を持つ方々へのインタビューシリーズ
第2弾は中国など新興国で現地支社長を経験し、現在中国研究を大学院で進めている武藤裕幸さんのお話を伺います。
(インタビュー実施日:2024年4月8日@Zoom)

(武藤裕幸さん 本人提供)

武藤裕幸さん

大手の自動車関連会社勤務の中で中国など新興国への工場立ち上げプロジェクトに長年関わる。退職後、仕事で得られた知見を学術分野に還元すべく2023年に愛知大学大学院 中国研究科修士課程に進学。今年後期からは大学で非常勤講師も務める。

「国際貿易と海外事業に関わってきました」

−−武藤さん、お忙しいところありがとうございます。
簡単で構いませんので、武藤さんの略歴を伺えましたら幸いです。

武藤:私は大手の自動車関連会社で勤務していまして、そこでは30年以上勤務していました。
主な仕事としては国際貿易と海外事業に関わる仕事です。

(イメージ画像)

輸出入業務や海外に工場を建てたり、あるいは会社設立したりといった仕事を行っていきました。
国としては中国、インド、ベトナム、ブラジルといった新興国へ進出していく際のプロジェクト、あるいは工場立ち上げプロジェクトに携わっていました。

その中で10年間、中国に駐在しておりました。

一部中断もありますが、5年間は上海で貿易物流の会社の社長です。
もうあと5年間は工場の責任者として駐在していました。

現在は定年退職後、昨年(2023年)愛知大学大学院の中国研究科修士課程に進学しました
今年で2年生になります。

「セカンドライフ支援制度」を活用して進学!

−−武藤さんが大学院に進学した理由は何ですか。

武藤:元々、若い頃に早期定年退職でボランティア、あるいは社会貢献活動をしたいなという風に漠然と思っていました。
ただ、海外駐在などで仕事が忙しくなってできずじまいでした。

定年の3年くらい前でしょうか、会社の方でセカンドライフ支援制度っていうのができました。
これは定年退職後、雇用延長せず、そこで辞めて第2の人生を歩む場合、会社がサポートしてくれる制度です。

例えば起業してコンサルタントになったり、また大学院に進学したりする場合会社から理由が認められれば退職金に相当額が積み増しでもらえる制度です。

このセカンドライフ支援制度ができたのをきっかけに「じゃあ自分も応募してみよう」と考えました。

その時には「ボランティアよりも自分の経験を活かして研究がしてみたい」と漠然と思っており、大学院進学を考え始めました。

定年退職直後は「科目等履修制度」を使いました。
2つの大学院で科目等履修制度を利用しています。 

科目としては国際政治など3つの科目を、いま私が所属している愛知大学大学院と名古屋外国語大学大学院で履修しました。

科目等履修生制度は大学・大学院に入学していなくても授業を履修できる制度です。詳しくはこちらをご覧ください↓

「科目等履修制度で大学院進学に自信が持てた」

−−科目等履修制度を使ったあと、どのような流れで大学院進学を決意されたのですか

武藤:実際に科目等履修制度を利用したのは、大学院ってどういうところなのかよく分かってなかったからです。
自分が大学院進学しても大丈夫なのだろうかと思ったのです。

なので「お試し」のような感覚で、まず申し込んでみました。
学んでいたら「あっ、これだったら自分も行ける」という自信が出てきたんです。

−−大学院進学への自信が付いたというのが素晴らしいですね。
どういうようなところから進学への自信を持たれたのですか。

武藤:実は名古屋外国語大学大学院で科目等履修生をした際、他に学生がいなかったんです。
他の学生がいなくて私と先生が一対一だから、毎回先生とディスカッションをしながら私がプレゼンをするという流れでした。


毎回、資料を用意してきて発表したところ「いいんじゃないか」「あ、これだったら修士課程に行っても論文を書けるんじゃないの」って言われたんです。

「小論文の学習に戸惑った」

−−そういう前段階があるからこそ、自信を持って大学院に進学に挑戦しようと思われたのですね。ところで、大学院の受験勉強は結構大変でしたか? それとも簡単でしたか?

武藤:受験勉強は何をしたらいいか当初全く分かりませんでした。
とにかく専門書を読まないといけないと考え、専門科目の本を読んでいきました。
政治学の書籍やそれから中国関係の書籍も読んでいきました。

ただ、一番困ったのは小論文を書かなきゃいけないということです。

私は大学受験のときも小論文の出題がなかったこともあり、「これまで一度も小論文を書いたことがないからどうしよう」と思っていたんです。

そんな時にYouTubeでいろいろ観ていたら、藤本先生のところの講座がみつかりました。
一回真剣に勉強しようということで、受験前年の夏ごろに初めて藤本先生の講義を受講しました。

−−ありがとうございます(笑)。塾での学びはいかがでした?

武藤:やっぱり最初は何にも分からない状態だったのですが、講義を聞く中でどうやって小論文を書けばいいかよく分かってきました。

どういう要領で小論文を書き、時間制限の中でどう問題を解いていくか、実践的に講義で学んでいきました。

「もし想定外のテーマが出たらどうしよう」という不安にも対応できるよう対策してもらいました。

テクニック的なところも含めて塾では色んな事を学習しました。
そのおかげで、本番の時は慌てることなく書き上げることができました。

「博士課程の研究内容がイメージできた」

−−それはよかったです! 実際にいま大学院の授業を受けてみる中で、大学院に入って良かったことについて教えてください。

武藤:私の受講している授業は中国人留学生ばかりです。
少人数なので発表やディスカッションの機会があり、自分なりに調べてその成果を発表する授業が多いです。

大学院に入ってよかったことは2つあるのですが、1つはある授業についてです。
授業のタイトルは「中国経済研究」という講義でして、ここでは3つのカテゴリーの院生が一緒に勉強しています。

まずは我々修士課程の院生、それから博士課程の院生、さらには中国の大学の博士課程の院生も参加しています。
これはダブルディグリー制度といって、中国の大学の博士課程の院生が日本に来て同じく博士課程の授業を取り、両方の大学で博士号が取れるっていう制度です。

授業では前半は修士課程の院生の発表、後半は博士課程の院生の発表となります。

博士課程で学んでいる人たちの研究テーマや研究内容、それから先生の講評というのを聞くことで「博士論文っていうのはこんな感じで書けばいいのか」「こういう勉強しているのか」というのが分かったのがとても良かったことです。

修士課程だけでなく、その一つ上のカテゴリの人たちと授業が一緒になることが非常に勉強になりました。

「学会発表が共同研究につながった」

武藤:大学院に入って良かったことの2つ目なんですけど、大学院長が担当された授業のなかで課題発表をしたことがあるんです。
その時に声をかけられまして、「学会で一回発表してみないか」ということを言われました。

その時は「学術研究成果ではなくて、私自身の海外でのビジネス経験をもとにプレゼンをしてほしい」って言われたんです。

そのため去年の秋、大学の先生達の前でプレゼンをするチャンスを与えていただきました。

プレゼンをした時、私のプレゼンを聞いてくれていた他の大学の先生から「共同研究をやりませんか」と提案を受けたんです。
そこから今までずっと一緒に共同研究をやっていて、今年6月にとある学会で共同発表することになりました。

−−すごいご縁ですね!

武藤:ほかにも、私の大学の先生から「大学の学部で授業をやってくれないか」とオファーがありまして。
秋学期から非常勤講師を行うことになったんです。


−−同じ大学の中で非常勤講師もなさるのですね!

武藤:はい、院生でありながら同じ大学の中で講義を行うことになり、「非常勤講師」という肩書きが出来てしまったんです。

まだ修士課程に入って1年しか経験していないんですけど、急に「先生」と言われるのは照れくさいですね(笑)。

「思わぬ形でチャンスをもらいました」

−−ということは、ある意味入学当初からの目標というか、夢みたいなものが叶ったような感じなんでしょうか。

武藤:実はこういう具体的な目標っていうのは掲げていなかったんです。
「まず修士論文を書いて少しでも学術的な貢献があればいいな」って漠然と思っていたところ、思わぬ形でチャンスをもらった形です。

−−素晴らしいですね! こういう、思わぬ変化があるのが大学院の面白いところだなと聞いていて思いました。続いて、大学院入って、逆にあんまり良くなかったところってありますか。

武藤:あまりよくないっていうことは見当たらないですね。

ただ、中国人留学生が多く、日本人の学生が少ないので、ここが他の日本人の院生や、あるいは私と同じ社会人の院生がいた方がもっと刺激になったなあ、と思います。
藤本先生のブログを見ていて「あ、同級生の方と色々とやっているな」と感じますが、そういう機会がないのでちょっと物足りないように思います。

ただ、私も藤本先生同様 院生協議会っていうのをやっているんで、少しばかり他の院生との交流はあるんです。

−−武藤さんの通っていらっしゃる大学院は、社会人大学院と言われているものの中でも研究者養成の意味合いが強い大学院ですので、本当に少数精鋭のところが多いかなと思います。

セカンドキャリアで大学院を目指す社会人へのアドバイス



−−では、大学院をいま目指している社会人の方、特に武藤さんのように、例えばセカンドキャリアなどで大学院を考えている方にアドバイスをお願いします。

武藤:大学院に入る前に自分の関心を持っている事を明確にし、自分なりに追求してみるのが大事ですね。
その上で、やっぱりアドバイスしてくれる人たちに相談するのが重要だと思います。
藤本先生を含めて色んな人と相談してみるといいですね。

その中でもう一回自分を振り返ってみて、「自分は一体どんな分野に向いてるのか」「どんなことで貢献できるのか」よくよく考えてみるのが必要だと思います。

−−私はよく「人に教える仕事をしたいから大学院に行きたい」という相談を受けるんですけど、そういう方に対して武藤さんから何かアドバイスはありますか。

武藤:大学院に進学した後のキャリアを具体的に考えてみる必要があるのではないかと思います
私もそんなにしっかり考えてなかったですけど、どういう方向に行きたいのかを明確にしておくといいですね。

例えば修士課程が終わった後、どうしたいのか。博士まで行きたいのか。この辺の自分のキャリアっていうのを考えておいた方がいいかなということです。

また、社会人大学院生の先輩は探せば意外と見つかるものですので、その人たちに話すのがオススメです。

私の場合もたまたまそういう人が近くにいました。

−−その方と話して、何か得られたものってありますか。

武藤:大学院進学後のゴールですね。その方は70歳で博士号を取った人なんです。
私と同じ大学院で修士課程含めて4年で博士号を取られ、色んな学会に所属しつつ学会活動もされています。

大学院を卒業してからも、自分の研究テーマに近い学会活動、あるいは日中交流の活動など活躍できる分野があるということを分かっているだけでも進学後の過ごし方が違ってくると思います。

どうしても入学するのが目標で、「入学して終わり」みたいになってしまうとモチベーションが出なくなります。
なので、卒業後を考える姿勢が必要だと思います。

「学問的な貢献をしていきたい」

−−武藤さんご自身は今後のキャリアのことなどで考えていらっしゃるものはございますか。

武藤:博士課程に進学したいと考えています。
また、今すでに始めてますけど、学会活動ですね。
学会で報告をしたりだとか、論文を投稿したりだとか、学問的な貢献ができれば嬉しいなと思いますね。

もう一つありまして、大学で教える機会をいただきましたので教育に携わる部分も力を入れてやっていきたいです。

−−武藤さん、ありがとうございます! 最後に何か言い足りないことがありましたら自由にお話しください。

武藤:退職してしまうと、会社との関係がなくなるので自分の進路について自分の責任で考えていかなければなりません。

でも先程も申しましたように、ロールモデルになるような人や同じように社会人として研究に頑張っている人であるとか、こういう人と交流できると自分の不安も解消できるし、自分の進む方向もある程度見えてきます。

なので、「本当に人との出会いが大事だな」と感じます。
この辺も楽しくやれれば、より自分のフィールドが広がると思います。

−−武藤さん、ありがとうございます。大変私も勉強になりました!


インタビューを終えて

国際貿易や海外事業に関わる仕事を長年行ってこられた武藤さん。
会社の中国進出プロジェクトなどを責任者として関わって来られるほか、現地企業の経営にも携わってこられた実力者でもあります。

その方が退職を機に思い切って学術研究の世界に入るというアクティブさ、素晴らしいなと感じました。

学術の世界はある意味 厳しいダメ出しなどもありうる世界です。
現役時代の経験にあぐらをかかず、謙虚に研究を進めていきたいという思いが伝わってくるインタビューでした。

武藤さん、お忙しい中ありがとうございます!

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