東大が落城したあの日のこと。佐々淳行『安田講堂攻防七十二時間 東大落城』を読んでみて。

佐々淳行さんの
『東大安田講堂攻防七十二時間 東大落城』、
読んでいると大変興味深いです。

通常、全共闘など学生紛争を描いた本は
学生=善・機動隊=悪
で描かれます。

ところが本書は
機動隊側の視点で描かれており、
大学紛争といえど
「暴力」「犯罪」の傾向が
あった実態が伝わってきます。


このように
反対の意見を知ると、
視点が深まってくるのです。

今回はこういうお話です。

危機管理のスペシャリスト。



さいきん、
元警察官僚であり、
「危機管理」のスペシャリストであった
佐々淳行(さっさ・あつゆき)さんの本を読んでいます。


「よど号ハイジャック事件」や
「あさま山荘事件」の際
中心者として事件収束を担当した人、
というとわかりやすいかもしれません。

佐々さんが担当だったのは、
日本初のハイジャック事件(よど号ハイジャック事件)や
革命派による海外でのテロ活動が頻発するなど
「危機」が日常だった時期です。

ある意味、日本が
テロ輸出国だった
不名誉な時代でもあります。

東大安田講堂が落城した、あの日。

そんな佐々さんが
東大での全共闘学生と
対峙した際の経験をまとめたのが

『安田講堂攻防七十二時間 東大落城』

です。


 

 

 

東京大学内に
東大全共闘の学生が立てこもり、
日々 機動隊との衝突があった時代。

東大のシンボル・安田講堂に立てこもった学生に対し
機動隊の放水車や
ヘリコプターからの催涙ガス、
地上からの機動隊が立ち向かっていきます。

立てこもり学生を
「落城」させた
昭和44(1969)年1月。

その激闘が
本書にまとめられています。

学生=善・機動隊=悪は本当か?

全共闘について書かれた書物では
多くの場合、
学生側に好意的に
書かれる傾向が多いように思います。


政府や東大という権威に対し
果敢に挑戦をした学生を称賛する書き方が
目立ちます。

実際、私もそれらを読み、
全共闘などの学生運動に
わりと共感を感じていました。




ですが。

本書を読むと
その印象が大きく変わってきます。



本書は全共闘と対峙した
機動隊など警察側の視点で
書かれています。

学生紛争の過激さ。

全共闘に好意的な本では
「権力である機動隊に沈静化させられる学生」
のような描き方がなされていますが、

本書は逆に学生のテロの過激さも描かれます。



全共闘学生は
東大当局や機動隊に対し、
建物からの投石やゲバ棒・
火炎瓶・硫酸瓶などで抵抗しました。

当たり前ですが、
これらが命中するとふつうに怪我します。

(投石といっても
 人の頭くらいの大きさの石を
 建物の上から落とすわけなので
 ふつうに人が死にます)

実際、本書では
機動隊を指揮するにあたり
部下を亡くしたり
生涯残る怪我を負わせたりしたことへの
無念の思いが描かれます。


(佐々さんの
 自宅への深夜の無言電話・迷惑電話も
 頻発していたようです)

こういう内情を読むと、
手放しで全共闘を支援できなくなってきます。

学問を守った機動隊員たち。

興味深かったのは次の記述です。



学生に占拠された
東大の各校舎に機動隊が入っていく場面の記載です。


〈貴重な文献があるから
 なるべく損壊させないでほしい〉

との東大当局の意向を受けつつ
機動隊が学生に立ち向かっていきます。


「それぞれ家庭の事情や
 経済上の理由で大学にはゆけず
 警察官になった、
 若い機動隊員たちが、

 大学側の泣かんばかりの要請を受けた
 上司の命令を忠実に守って、
 一生懸命書籍や文献、
 マイクロフィルムを籠城学生の破壊から
 守ろうとしたことは、特筆すべきことだ。

 一方、親の脛(すね)かじりで
 高額の学費を要する大学に入った
 ゲバ学生たちは、
 まさに”焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)”、
 貴重な原書などの書籍をバリケード封鎖に使い、
 文献で焚火(たきび)して暖をとるなど、
 文化遺産の破壊を行い、
 弱い者苛めで大学教授を監禁して吊し上げた。
 (…)
 世の中にはしたり顔に
 「大学にいけなかったコンプレックスから
 機動隊は大学生に暴力をふるうのだ」などと
 論評する知識人たちがいる。

 日頃自分たちより知性や感性において
 ずっと下の存在と見下している機動隊員が、
 法研(注 東大の法学研究棟)で体を張って
 文化遺産を守った事実を、
 彼らにもぜひ知ってほしいと思う」

Kindle版168-169ページ/313ページ

 

よくある本では
全共闘側が善、
機動隊(および政府)側が悪で描かれています。

それに対し
本書では機動隊側の視点で描かれているので
いつもと違う感覚で読むことが出来ます。

本書『東大落城』をよむと、
大学紛争や全共闘運動において、
学生が100%善だったとはいえなくなります。


機動隊側に殉職者を出している以上、
しょせんは「人殺し」であり
その点で「犯罪」であったという事実も
実感できてくるのです。


(もちろん、これだけを理由に
 大学紛争全体を批判しているわけではありませんので…)


なので他の本のように
ヘンに学生をヒーロー扱いしては
いけないのではないか、と思えてくるわけです。


今回のポイント


反対側の意見を知ることで
見えてくることがある!
視野を広く持つ意識を!

両方の立場の本を読もう1

今回に限らず、
両方の立場を知ることで
見えてくることがあります。

自分の意見と反対の側の本を読んだほうが
自分の考えを深める上で役立つことも多いのです。

この姿勢、
私は学生時代にディベートを学んだ際に
実感しました。

競技ディベートでは
あるテーマに対し
賛成側・反対側 両方から考察することが
求められます。

そのため
必然的に賛成・反対両方の
資料を読み漁ることになります。

それが自分の考えを深める上で
大いに役に立つわけです。




なので
大学院進学においても
自分の意見と反対側の本、
読んでみるのがいいですよ!

論破の時代にこそ、反対側の意見も読む!

特に近年は反対意見を
カンタンに論破する動きが見られ、

「物事はそんなに
 単純じゃないのにな…」

と思うことがたくさんあります。

反対意見に耳を傾ける意味でも
自身の反対の立場の本、
読んでみるのをオススメします!

ではまた!


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