「意識高い系」が民主主義を滅ぼす?現代版「パンとサーカス」!書評『WOKE CAPITALISM』

SDGsに取り組む企業への「モヤモヤ」感

最近、SDGsなど環境保護運動や
社会貢献活動をしている企業や個人が増えています。

これ自体、なんにも悪いことではないのですが、
どこか「モヤモヤ」した思いを持っている人は
いないでしょうか?

ハッキリ言ってしまえば
「あくまでそれ、アピールじゃないの?」
と思ってしまうような感情です。


このモヤモヤした思いを
言語化してくれる本を最近読みました。

それが
『WOKE CAPITALISM(ウォーク・キャピタリズム)』
という本です。

 

 

これ、めっちゃ面白い本です。

(あとでいいますが、若干問題はある本ですが…)



社会貢献活動を行っている企業・個人に対する
「胡散臭さ」を鋭く指摘する暴露本としても
機能しているのです。



たとえば近年
企業の社会的責任などが
言われています。


実際、
SDGsに対する貢献や
企業としてのボランティア活動等について
評価する動きがでています。

このこと自体「素晴らしい」ことです。

ですが、
実はそれがあくまで見せかけの
ポーズであり、

企業の「良いイメージ」を与えることにしか
機能していないのではないか。

本書では鋭く警告します。

アマゾンの事例

本書の「巻頭解説」を書いた
評論家・中野剛志氏の文章を引用します。

「アメリカやオーストラリアにおける
 「ウォーク資本主義」の実例については、
 本書の中で山程挙げられているが、
 その中から一例だけ紹介しておこう。

 それは、アマゾンの創業者ジェフ・べゾフ氏である。
 
 2020年、べゾフ氏は気候変動対策のために、
 100億ドルもの寄付を行った。

 この金額は、
 アメリカ政府が気候変動対策のために
 投じた資金とほぼ同程度であるという。

 なんと意識の高いことだろうか!

 ところが、アマゾンが10年間で納めた
 税金の総額は、
 この寄附金額の3分の1程度に過ぎなかった。

 2018年にアマゾンは110億ドルの利益を上げたが、
 法人税はまったく支払っていなかった。

 2019年の利益は130億ドルだったが、
 アマゾンの法人税の実効税率は1.2%にすぎなかった。

 もちろん、アマゾンは、
 違法な脱税を行っていたわけではない。
 
 世界各国の租税法の抜け穴を巧みに利用して
 法人税負担を可能な限り軽減する
 「租税回避」を行っていたのだ。

 
 (中略)
 実は、このような公共の利益を重視しているかに
 見える企業活動は、むしろ、
 企業の経済的な利益を守り、
 さらには殖やすための手の込んだ策略なのだ。

 (著者である)ローズ教授は、そう主張するのである。

 まず、社会的正義に熱心であるという
 企業ブランド・イメージを打ち出したほうが、
 より儲かる。

 だから、企業は、熱心に寄付を行っているのである。

 もっとも、それだけなら、
 たいして悪い話ではないように見える。

 それどころか、企業の私的利益と公共の利益が
 一致するならば、
 それは歓迎すべきことではないかと
 思われるかもしれない。

 しかし、問題は、そこにはとどまらない。

 富裕者層が巨額の寄付を行って
 公共の問題に取り組む姿勢を見せるのは、
 裏を返せば、民主政治が公共の利益を実現する
 必要はないというジェスチャーなのである。

 (中略)

 それは、端的に言えば、民主主義の否定にほかならない。
 富裕者層による金権政治である」

 (『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』
 Kindle版5-7頁/353頁)


アマゾンCEOが
気候変動対策のために
大金を寄付する。

これ自体は「素晴らしい」ことですが、
これによってアマゾンが巧妙に
法人税を回避している事実が
見えなくなってしまう。


それでいて、
気候変動対策に取り組む
「よい企業」であるとアピールすることができる。

CEOのジェフ・べゾフさんが果たしてどんな意図で
寄付をしているかは私もわからないのですが、
うがってみるとこういう見方もできるのだなあ、
と実感した引用文となっていました。

WOKEとは「意識高い系」。

本書のタイトルは
『WOKE CAPITALISM』。

日本語でいうと
「ウォーク資本主義」。

WOKE(ウォーク)とはもともと
スラングとして生まれた言葉で
「目覚めた」というような意味の言葉です。


当初は環境問題や人権問題など、
世の中の現状の問題点について
「目覚めた」人のことを言うことばでした。


ですが、
使われている間に
「エセ活動家」のような振る舞いをする人に対し
侮蔑的に使われるようになっていったのです。

先程挙げたアマゾンCEOに対する例のように
いまでは
「言っていることとやっていることの
辻褄があっていない人
」のことを
指す言葉となっています。



この「WOKE」という言葉、
日本語で言う「意識高い系」のことを意味しています。

(私も時折そう言われるのは自覚しています…)


そのことを受け、本書の日本語サブタイトルは
「「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす」
となっているのです。

さて、アマゾンの事例に限らず、
本書には世の中の問題に対して
先進的な取り組みをする企業が
多数登場します。

それらがことごとく
「WOKE」であると批判されていきます。

ブラックライブズマターへの取り組みや
女性の権利運動など、

それ自体は良い取り組みであるのに
あくまで「アピール材料」として
企業のPRに活用されてしまう事例が多数載っています。

ときには政府の無策に企業として抗議し、
かわりに巨額の寄付を行う。


そうやって自社のブランドイメージを高めていくという
事例の数々…。

ある意味で企業が
「国家」の行う政策を肩代わりするようになり、

そのいい印象で消費者が
その企業の製品を支持するようになる構図が描かれます。


現代版の「パンとサーカス」

読んでいて思ったのは

「これって、
 現代版の「パンとサーカス」だな」

ということです。


古代ローマ帝国において、
貴族は政治的主導権を握るため、
民衆に対してパンを配るほか
見世物としてサーカス(剣闘士)を
無料で見せていました。

そうやって自身の支持を拡大し、
政治的影響力を得ていったのです。

現代社会において
企業の社会的責任や
SDGsへの取り組みが問われる現状、

下手をしたら
現代版の「パンとサーカス」の
再来が起きているのかもしれないと
読んでいて思ってしまったのです。


今後の社会を考える上で
たいへん面白い本でした。

(不思議なのですが、
 アマゾンをコケにする本書、
 ふつうにアマゾンで購入できました…

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今回のポイント


現代版の「パンとサーカス」?
「意識高い系」企業のあり方を考える!

本書への素朴な思い

私も経営者の端くれとして
「企業の社会的責任」などについて
考えることがあります。

なので本書を読んでいると
「じゃあ、企業として
 なにやったらいいんだ!」
という根本的な疑問が頭に浮かんできます。


仮に全くSDGsや環境対策などをやらず
企業が金儲けや利潤追求だけをやっていると
「強欲資本主義だ!」
と非難されます。

じゃあ、といって
SDGsなどの取り組みに熱心に取り組むと
「WOKEだ!」
「意識高い系だ!」

と批判されます。

「じゃあ、どうやったらいいんだ!」

という怒りに近い思いが
湧いてくるのです。


大部分の企業はコツコツ・まっとうにやっています。

ただ、ここで思いました。


本書が取り上げているのは
あくまで国際的な巨大企業に限られる、
ということです。

大多数の企業は
アマゾンの事例のように
いくつもの国を経由して
「法人税回避」なんてしていません。

(というか、そもそもできません)


大多数の企業は
まっとうに納税をし、
まっとうに雇用をしています。

(雇用の待遇についてなど
 細かな内容はここでは省きますが…)



日本の多くの会社も
たいていはこうやって
まじめに経営しています。

それでいてアメリカ企業と違うのは
日本企業では
経営者自身の報酬が
相当低めに抑えられている企業が多いということです。


アメリカ企業では
一般社員とCEOなど経営層との
給料格差は数百倍に上ることもザラですが、

日本企業では
両者の給料格差は
せいぜい数倍どまりなことが多いです。


そのうえで、
たとえば地域貢献に熱心だったり、
ボランティア活動を長年取り組んでいたりするなど
ほんとうの意味で社会貢献に資する企業が
日本には結構あります。

それこそ「WOKE」や「意識高い系」とも違う、
真っ当な取り組みをしている企業です。

『日本でいちばん大切にしたい会社』という
本もありますが、
まじめにコツコツ頑張っている
良心的な経営者も多く存在するのです。

ですが、本書だけを読むと
そういう「まじめにコツコツ」取り組む
良心的な企業すら
「WOKE」「意識高い系」と言って
切り捨ててしまう意識を持ってしまう可能性があるのです。


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『WOKE CAPITALISM』だけを読まないほうがいいかも…。

『WOKE CAPITALISM』だけを読むと
経営者の強欲さに「怒り」を覚えると思いますが、

「これって、あくまで
 巨大グローバル企業だけにしか
 当てはまらないのじゃないかな」

と思ってきています。

『WOKE資本主義』を読むと、むしろ、

「日本的な経営のあり方って
 意外といいんじゃないか」

と思うようにもなりました。


企業のあり方は
自分の生き方・働き方と
直結しています。


今後の社会を考える際、
企業のあり方はどうあるべきかを考察するのも
重要だと思います。

特に大学院でMBAを目指す場合など、
「企業の社会的責任」などを考える大きなヒントにも
なるようにも思います。


…『WOKE CAPITALISM』だけを読むと
「絶望」しかないので、
可能ならば
『日本でいちばん大切にしたい会社』も
併読することをおすすめします!

ではまた!


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