SDGsに取り組む企業への「モヤモヤ」感
最近、SDGsなど環境保護運動や
社会貢献活動をしている企業や個人が増えています。
これ自体、なんにも悪いことではないのですが、
どこか「モヤモヤ」した思いを持っている人は
いないでしょうか?
ハッキリ言ってしまえば
「あくまでそれ、アピールじゃないの?」
と思ってしまうような感情です。
このモヤモヤした思いを
言語化してくれる本を最近読みました。
それが
『WOKE CAPITALISM(ウォーク・キャピタリズム)』
という本です。
これ、めっちゃ面白い本です。
(あとでいいますが、若干問題はある本ですが…)
社会貢献活動を行っている企業・個人に対する
「胡散臭さ」を鋭く指摘する暴露本としても
機能しているのです。
たとえば近年
企業の社会的責任などが
言われています。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2023/06/buil-1024x681.jpg)
実際、
SDGsに対する貢献や
企業としてのボランティア活動等について
評価する動きがでています。
このこと自体「素晴らしい」ことです。
ですが、
実はそれがあくまで見せかけの
ポーズであり、
企業の「良いイメージ」を与えることにしか
機能していないのではないか。
本書では鋭く警告します。
アマゾンの事例
本書の「巻頭解説」を書いた
評論家・中野剛志氏の文章を引用します。
「アメリカやオーストラリアにおける
「ウォーク資本主義」の実例については、
本書の中で山程挙げられているが、
その中から一例だけ紹介しておこう。それは、アマゾンの創業者ジェフ・べゾフ氏である。
2020年、べゾフ氏は気候変動対策のために、
100億ドルもの寄付を行った。この金額は、
アメリカ政府が気候変動対策のために
投じた資金とほぼ同程度であるという。なんと意識の高いことだろうか!
ところが、アマゾンが10年間で納めた
税金の総額は、
この寄附金額の3分の1程度に過ぎなかった。2018年にアマゾンは110億ドルの利益を上げたが、
法人税はまったく支払っていなかった。2019年の利益は130億ドルだったが、
アマゾンの法人税の実効税率は1.2%にすぎなかった。もちろん、アマゾンは、
違法な脱税を行っていたわけではない。
世界各国の租税法の抜け穴を巧みに利用して
法人税負担を可能な限り軽減する
「租税回避」を行っていたのだ。
(中略)
実は、このような公共の利益を重視しているかに
見える企業活動は、むしろ、
企業の経済的な利益を守り、
さらには殖やすための手の込んだ策略なのだ。(著者である)ローズ教授は、そう主張するのである。
まず、社会的正義に熱心であるという
企業ブランド・イメージを打ち出したほうが、
より儲かる。だから、企業は、熱心に寄付を行っているのである。
もっとも、それだけなら、
たいして悪い話ではないように見える。それどころか、企業の私的利益と公共の利益が
一致するならば、
それは歓迎すべきことではないかと
思われるかもしれない。しかし、問題は、そこにはとどまらない。
富裕者層が巨額の寄付を行って
公共の問題に取り組む姿勢を見せるのは、
裏を返せば、民主政治が公共の利益を実現する
必要はないというジェスチャーなのである。(中略)
それは、端的に言えば、民主主義の否定にほかならない。
富裕者層による金権政治である」(『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』
Kindle版5-7頁/353頁)
アマゾンCEOが
気候変動対策のために
大金を寄付する。
これ自体は「素晴らしい」ことですが、
これによってアマゾンが巧妙に
法人税を回避している事実が
見えなくなってしまう。
それでいて、
気候変動対策に取り組む
「よい企業」であるとアピールすることができる。
CEOのジェフ・べゾフさんが果たしてどんな意図で
寄付をしているかは私もわからないのですが、
うがってみるとこういう見方もできるのだなあ、
と実感した引用文となっていました。
WOKEとは「意識高い系」。
本書のタイトルは
『WOKE CAPITALISM』。
日本語でいうと
「ウォーク資本主義」。
WOKE(ウォーク)とはもともと
スラングとして生まれた言葉で
「目覚めた」というような意味の言葉です。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2020/04/human-eye-1925630-768x1024.jpg)
当初は環境問題や人権問題など、
世の中の現状の問題点について
「目覚めた」人のことを言うことばでした。
ですが、
使われている間に
「エセ活動家」のような振る舞いをする人に対し
侮蔑的に使われるようになっていったのです。
先程挙げたアマゾンCEOに対する例のように
いまでは
「言っていることとやっていることの
辻褄があっていない人」のことを
指す言葉となっています。
この「WOKE」という言葉、
日本語で言う「意識高い系」のことを意味しています。
(私も時折そう言われるのは自覚しています…)
そのことを受け、本書の日本語サブタイトルは
「「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす」
となっているのです。
さて、アマゾンの事例に限らず、
本書には世の中の問題に対して
先進的な取り組みをする企業が
多数登場します。
それらがことごとく
「WOKE」であると批判されていきます。
ブラックライブズマターへの取り組みや
女性の権利運動など、
それ自体は良い取り組みであるのに
あくまで「アピール材料」として
企業のPRに活用されてしまう事例が多数載っています。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2020/04/architecture-buildings-city-fog-373965-1024x683.jpg)
ときには政府の無策に企業として抗議し、
かわりに巨額の寄付を行う。
そうやって自社のブランドイメージを高めていくという
事例の数々…。
ある意味で企業が
「国家」の行う政策を肩代わりするようになり、
そのいい印象で消費者が
その企業の製品を支持するようになる構図が描かれます。
現代版の「パンとサーカス」
読んでいて思ったのは
「これって、
現代版の「パンとサーカス」だな」
ということです。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2023/06/roma1-1024x768.jpg)
古代ローマ帝国において、
貴族は政治的主導権を握るため、
民衆に対してパンを配るほか
見世物としてサーカス(剣闘士)を
無料で見せていました。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2023/07/roma2-1024x683.jpg)
そうやって自身の支持を拡大し、
政治的影響力を得ていったのです。
現代社会において
企業の社会的責任や
SDGsへの取り組みが問われる現状、
下手をしたら
現代版の「パンとサーカス」の
再来が起きているのかもしれないと
読んでいて思ってしまったのです。
今後の社会を考える上で
たいへん面白い本でした。
(不思議なのですが、
アマゾンをコケにする本書、
ふつうにアマゾンで購入できました…)
☆『WOKE CAPITALISM
「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』の
詳細とお求めはこちら↓
今回のポイント
現代版の「パンとサーカス」?
「意識高い系」企業のあり方を考える!
本書への素朴な思い
私も経営者の端くれとして
「企業の社会的責任」などについて
考えることがあります。
なので本書を読んでいると
「じゃあ、企業として
なにやったらいいんだ!」
という根本的な疑問が頭に浮かんできます。
仮に全くSDGsや環境対策などをやらず
企業が金儲けや利潤追求だけをやっていると
「強欲資本主義だ!」
と非難されます。
じゃあ、といって
SDGsなどの取り組みに熱心に取り組むと
「WOKEだ!」
「意識高い系だ!」
と批判されます。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2023/06/kougi-1024x683.jpg)
「じゃあ、どうやったらいいんだ!」
という怒りに近い思いが
湧いてくるのです。
大部分の企業はコツコツ・まっとうにやっています。
ただ、ここで思いました。
本書が取り上げているのは
あくまで国際的な巨大企業に限られる、
ということです。
大多数の企業は
アマゾンの事例のように
いくつもの国を経由して
「法人税回避」なんてしていません。
(というか、そもそもできません)
大多数の企業は
まっとうに納税をし、
まっとうに雇用をしています。
(雇用の待遇についてなど
細かな内容はここでは省きますが…)
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2020/04/architectural-design-architecture-building-business-443383-1-1024x768.jpg)
日本の多くの会社も
たいていはこうやって
まじめに経営しています。
それでいてアメリカ企業と違うのは
日本企業では
経営者自身の報酬が
相当低めに抑えられている企業が多いということです。
アメリカ企業では
一般社員とCEOなど経営層との
給料格差は数百倍に上ることもザラですが、
日本企業では
両者の給料格差は
せいぜい数倍どまりなことが多いです。
そのうえで、
たとえば地域貢献に熱心だったり、
ボランティア活動を長年取り組んでいたりするなど
ほんとうの意味で社会貢献に資する企業が
日本には結構あります。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2023/06/boran-1024x683.jpg)
それこそ「WOKE」や「意識高い系」とも違う、
真っ当な取り組みをしている企業です。
『日本でいちばん大切にしたい会社』という
本もありますが、
まじめにコツコツ頑張っている
良心的な経営者も多く存在するのです。
ですが、本書だけを読むと
そういう「まじめにコツコツ」取り組む
良心的な企業すら
「WOKE」「意識高い系」と言って
切り捨ててしまう意識を持ってしまう可能性があるのです。
☆『日本でいちばん大切にしたい会社』の
詳細とお求めはこちら↓
『WOKE CAPITALISM』だけを読まないほうがいいかも…。
『WOKE CAPITALISM』だけを読むと
経営者の強欲さに「怒り」を覚えると思いますが、
「これって、あくまで
巨大グローバル企業だけにしか
当てはまらないのじゃないかな」
と思ってきています。
『WOKE資本主義』を読むと、むしろ、
「日本的な経営のあり方って
意外といいんじゃないか」
と思うようにもなりました。
企業のあり方は
自分の生き方・働き方と
直結しています。
![](https://school-edu.net/wp-content/uploads/2022/09/work-1024x684.jpg)
今後の社会を考える際、
企業のあり方はどうあるべきかを考察するのも
重要だと思います。
特に大学院でMBAを目指す場合など、
「企業の社会的責任」などを考える大きなヒントにも
なるようにも思います。
…『WOKE CAPITALISM』だけを読むと
「絶望」しかないので、
可能ならば
『日本でいちばん大切にしたい会社』も
併読することをおすすめします!
ではまた!
コメントを残す