『日本語の作文技術』のワザで、悪文を修正してみる。
突然ですが、この写真を見てあなたはどう思いますか?
拡大してみましょう。
「高校生以外の進学を考えている皆様へ」。
この文章、非常に「よくわからない」ものではないでしょうか。
札幌市営地下鉄の車内広告ですが、初めて観たとき、衝撃でした。
「え、中学生に対して【高校以外】の進学先を紹介しているの?」
そう思い、「中学生にどんな進学先を紹介しているのだろう?」と思い興味を持ちましたが、内容は全く違いました。
そう、この広告は「社会人」や「高齢者」の方などに、
「大学や短大・専門学校に進学しませんか?」という広告だったのです。
では、この広告、どう直すとよくなるのでしょうか?
(1)テンを打つ
こう打ってみます。
高校生以外の、進学を考えている皆様へ
テンをうつことで限定性が生まれました。
ただ、私の作文教室では「なるべくテンを打たなくても分かる文章」を書くようにお伝えしています。
なぜなら、この広告のように「テンを打たないと誤解される」「テンがなくて誤解されて作文や小論文の点数が下がる」ことになるからです。
もう一つ方法があります。
(2)長い修飾語を先に、短い修飾語を後に。
本多勝一の書いた『日本語の作文技術』という本があります。
もう30年以上も前の本ですが、いまだにこれ以上の「書き方」本はないと言えてしまう本です。
『日本語の作文技術』には、文章を書く際のルールにこういうものがあります。
長い修飾語ほど先に、短いほどあとに。(71ページ)
修飾語というのは、文章を飾る言葉。
例えば、「Aさんは元気よく走った」という文を見てみましょう。
この文章において最低限必要なのは「Aさん」と「走った」だけです。
「元気よく」は無くても意味が通ります。
ですが、Aさんがどのように走ったか具体的に説明してくれる部分です。
具体的に説明を追加する部分を「修飾語」といいます。
このルールを元に、「高校生以外の進学を考えている皆様へ」を直してみましょう。
この文章の修飾語は「高校生以外の」と「進学を考えている皆様へ」です。
長い修飾語はどちらでしょう?
そう、「進学を考えている皆様へ」ですね。
長い修飾語を先、短い修飾語を後ろにしてみます。
進学を考えている高校生以外の皆様へ
どうでしょう?
一番言いたい内容になったのではないでしょうか?
これで間違いなく「中学生で高校以外の進路を考えている人」のことはイメージされなくなります。
たった1つのルールだけで文章がわかりやすくなる。
本多勝一さんの『日本語の作文技術』のワザの凄さが伝わりますね!
・・・ただ、別の問題が出てきました。
「進学を考えている高校生」以外、ということは「就職希望の高校生」に向けた意味にとられる危険性があるのです。
これは困りましたね。
結局、この文章、そもそも無理があるのです。
いろんな人の意見も聞いたうえで考えると、意味を誤解させないためには文言を変えなければなりません。
大学や短大・専門学校への進学を考えている皆様へ
結局、具体的に書いてあげないと届かないようです。
(3)なぜこの文章は誤読されるのか?
それにしても、「高校生以外の進学を考えている皆様へ」という文章はなぜこんなにもわかりにくいのでしょう?
本多勝一さんの『日本語の作文技術』に戻ります。
文章を書く他のルールに、こんなものがあります。
親和度(なじみ)の強弱による配置転換(71ページ)
親和度というのは、言葉自体が持っているイメージの「近さ」のことです。
今回の例でいうと「高校生」という言葉と「進学」という言葉にはかなりなじみの深い言葉だといえます。
「高校生」と「進学」という言葉が近くにあると、「進学する高校生」のイメージで文章を読んでしまうのです。
「進学する高校生」をイメージしてこの文章を見ると、
「え、進学するのは誰なの?中学生?」と誤読が生じるのです。
さあ、誤読されてしまった今回の広告文。
まさにダメなキャッチコピーの例ともいえるでしょう。
私主催で行った『広報紙・フリーペーパー作成発行連続講座』の第3回「キャッチコピー」講座を学び直してみる必要がありますね!!!
☆ おそらくですが、この広告はあえて「誤字」を使うことで、このブログのように議論されることを狙っているはずです。
そうでなければ、大金を使って車内広告を出している意味はあまりないはず・・・。
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